「……って何で窓から!?」
「見つけましたよエリック・ホワイト! 今度はあのような卑劣な手段は通用しません! 大人しく縛につく気がないのなら、勇者の料理でその気にさせるまで!
『かまどの勇者』クドーが貴方を捕らえてみせます!」
突如窓を割って入ってきた『かまどの勇者』クドー。ポーズを決めた後に、
「あ、窓代とかは全部後で弁償します。はい、これ前金で」
『水色セイレーン』の従業員たちに頭を下げて、お金を渡していた。幸いけが人もないこともあり、パニックは起きなかった。
「……って何で窓から!?」
「蟲使いスキルの情報は聞いています。つまり! 虫に感知されないルートを選んだら窓からが最適でした!」
「あーね。さすが
「それで納得するのもどうなの、クー……」
「そういうもんなのさ、大将」
どこか諦めたように呟くネイラ。どうあれ状況は面倒なことになった。
前と変わらない状況。このままでは前と同じ目に合うのは確実だ。逃げの一手を決め込むのが一番だと出口に目を向けて――
「させません! ウサギさん、出口を塞いでください!」
「え?」
クドーの言葉と同時に、クーとネイラとケプリが動いて扉を封鎖する。ご丁寧に鍵をかけた。その結果に呆然とするエリック。
「ち、違うのエリっち!? 体が勝手に動いて! やだやだやだ!」
「ウソだろ!? なんでオレ、あいつのいう事聞いてるんだ!?」
「迂闊でした。このウサギ服自体が<
自意識はあるけど、クドーの言葉に逆らえない。そんな状態のようだ。
「さあ、改めて観念してくださいエリック・ホワイト。彼女達は貴方の洗脳から解き放ちました! 勇者の名において、貴方の好きにはさせません!」
「むしろそちらの方が洗脳なのではないかと思うのですが?」
「己の罪を悔いる時間です!」
冷静なケプリのツッコミを無視して、クドーは叫ぶ。その間もエリックは微動すらしなかった。逃げ場がない、という事もあるが身動き一つしなかった。
逃げることよりも大事なことが、あった。
「クー。僕はキミを洗脳なんかしていない」
「……? 何当たり前のこと言ってるのよ。エリっちはあーしの嫌がることをしないわよ」
「ネイラ。僕はキミを洗脳なんかしていない」
「当然だろ? オレはオレの意志で大将についていってるんだ」
「ケプリ。僕はキミを洗脳なんかしていない」
「はい。
「うん、ありがとう」
言ってエリックはクドーに向き直る。これだけは告げておかないといけない事だ。
「僕は彼女達を洗脳なんかしていない」
「犯罪者の言う事なんか、信用できません!」
「そうだね。信用しないのは貴方の自由だ。でもこれだけは胸を張って言える。
彼女達は僕を信じてくれている」
それは、エリック・ホワイトが人生の中で得たモノの一つ。
誰かを信じる事。信じてもらえること。その事実はエリックの中で確かな柱となっていた。
エリック・ホワイトは蟲使いだ。虫を使い、戦うことのできないジョブだ。
「僕は弱い。彼女達に挑んでも勝ち目なんかない。どうしようもないぐらい情けない蟲使いだ。
だけどそんな僕を信じてくれる。だったらその信用の半分ぐらいはこたえないと」
目の前にいるのはジョブの最高峰ともいえる、
それでも、ここで彼女達の信頼に応えないという選択肢はない。
勇者が彼女達の信用を『洗脳された』と言うのなら。
その事で彼女達が苦しむと言うのなら。
それに応えずに逃げることなんて、出来るはずがない!
「エリっち……」
「ごめんなさい、半分は無理かも。三分の……ごめん、四分の一ぐらいで」
「エリっちー! そこはびしっと決めてよっ! あーしの感動を返せ!」
「あっはっは! やっぱ大将は気合入れても大将だ! ワリィけど、バカ受けしたぜ!」
「まあ、四分の一でも『応える』と言ってくれたのは成長でしょう。ケプリはずっと
言った後にヘタレるエリック。それに言葉を返すクー達。
「と、とにかく『かまどの勇者』クドー……さん。さっきの暴言は謝ってほしいんだけど」
「でしたら大人しく罪を認めてください! そうすればやぶさかではありません!」
「やってもいない事を罪として認めるわけにはいかない」
「口ではいくらでも言えます! 無実ならこの『オークキングカツ丼』を食べても、大丈夫なはずです!」
「あ。そういうのはごめんです」
『どんな罪でも告白する』なんてことをすれば、クーの存在を喋ることになる。そうなれば厄介なことになるだろう。
だが実際問題として――勇者のスキルから逃れる術はなかった。
「な、何この机!? っていうかいきなり勇者が着替えてる!?」
エリックの視界が突如灰色の壁に包まれた部屋に変化する。灰色の机の上に明るく光る球状の魔道具――エリックは知る由もないが、現代社会の警察の取調室である。クドーの格好も、ミニスカポリス風になっていた。
そのクドーが、お椀に入った料理を出す。見たことのない白い何かの上に、茶色の何かが乗っている。これが『オークキングカツ丼』なのだろうとエリックは察した。
「……お前にも故郷があるんだろう? さあ、食えよ」
「刑事さん……」
刑事って何? と思いながらもエリックはそう呟いていた。そのまま箸――使い方なんて全然わからない木の棒を割って、使ったことがないのに器用に『オークキングカツ丼』を口に運ぶ。
「こ、これは――!」
エリックの全身に、何かが漲っていた。
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