「アイツ、世界の事なんも考えてない破壊魔だったし」

「アンタの知り合いだから、どんなマッチョダルマなんだろって思ってたのに」

「絡まれてるところを助けて、ダチになったんだ」


 不満そうなクーの声に、自慢げに胸を張るネイラ。なおバニー服は未だそのままだった。


「この服を着て隠れれる場所は限定されます。結果論ですが、よかったかもしれません」

「うん。そうだね……」


 同じくロリバニーなケプリがそう告げ、エリックは相づちを打つ。そこを見ても何か言われそうな、そんな空気に意を痛めながら。


「なになにぃ? おにーさん遊んでいかないの?」

「お金なくてもサービスするわよ。ネイラちゃんの知り合いなんでショ?」

「もー。遠慮しなくていいから」


 からかうように声をかけてくる女性達。色気を表に出した衣装と艶めかしい声でエリックを誘う女性達。優しい声で告げるが、一度席に着ければ言葉巧みな話術と手管でどんどんお酒を飲ませてくるだろう。そういう仕事なのだから。

 BAR『水色セイレーン』……いわゆる夜の酒場である。女性によるサービス(あくまで酒を飲んで、話を聞いたりする程度)を売りにしており、その分裏稼業の人間や酔漢とのトラブルが絶えない。ネイラがそれを助けたことがあるという。


「こらぁ、エリっちから離れろ! エリっちもデレてないでしっかり断わる!」

「デレてはない……かな?」

「なんで疑問形なのよー!」

「落ち着け蜘蛛女。一応逃亡中だってことを忘れんな」


 エリックに迫るセイレーンの従業員たちを追いはらうクー。その様子に苦笑しながら仲裁するネイラ。


「まあ、周囲の虫に<感覚共有シェアセンス>をかけて見張っているから、あの勇者がやってきたらすぐに逃げれば大丈夫だよ」


 スキルに集中しながらエリックがそう告げる。冒険者ギルドでは準備期間がなかったが、今は襲撃に対して備える余裕がある。相手の動きを察することが出来れば、対応は難しくはない。


「もっとも、それ以前にここに逃げ込んだなんてあの子に分かるはずもない――」

「エリっち甘い。勇者ブレイブ舐めプしちゃダメ」

「あいつらはそういう常識の外に居るんだよ」

メタ目線ですが、判定可能ならクリティカルしてなんでも成功する理不尽キャラです」


 勇者をまだよく理解していないエリックに、勇者を良く知るクーとネイラとケプリは語る。


「いい? アイツは超強い力を与えられたワガママ子供なの。自分の思い通りに世界遊んで、その責任をとらないサイテー野郎なのよ!」

「言ってしまえば台風とか地震みたいなモンだ。それも神が認定したクソなレベルのな。しかも当人は善意のつもりでやってるからなおタチが悪い。オレ達の話なんかまるで聞きやしねぇんだから」

「太陽神キャラかぶりとか、酷い理由で世界を壊しかねない炎を放ってくるのは勘弁してほしかったです」

「う、うん……皆が勇者にひどい目にあわされた、っていうのは解った」


 感情的に叫ぶクー。こういう時は冷静に怒りを溜めるネイラ。負の感情をまき散らすケプリ。成程これは酷い目にあったんだな、とエリックは察する。色々聞いてみたいが、それをすると火に油を注ぎかねないので話を戻すことにした。


「で、あの『かまどの勇者』も同類だとして……他の勇者を呼ばれるとかはありそう?」

「無理じゃね? 勇者同士って仲悪いみたいだし」


 エリックが懸念したのは、援軍の事だ。だがそれはあっさりクーに否定される。


「そうなの?」

「うん。全員が『オレサマ一番!』とか言い張ってるみたいで、手を組むとかそんな雰囲気じゃなかった」

「『かまどの勇者』の様子を見る限りだと、そういう雰囲気はなかったけどなぁ」

「あの子はいろんな意味で他人を手を組めないんじゃない? 性格はいい子ちゃんぽいし。悪いことしたら止めそうだから組めないかも」

「……勇者、っていい人じゃないの? 神様のスキルを授けられるほどの人なんだよね?」


 エリックの言葉は、世間一般的な勇者ブレイブのイメージだ。神に選ばれた12人の存在。世界を良い方向に導く人類の最先端の存在。


「ないない」

「ねーよ」

ファラオ、流石に鼻で笑います」


 だが勇者を知る三人から、そのイメージは即座に否定された。


「アイツ、世界の事なんも考えてない破壊魔だったし」

「そもそもこの世界の人間じゃねーからなぁ」

「異世界から転生された魂を加工して世界に降ろした、いわば異物ですからね」

「良くわからないけど……」


 三人の告げる単語を全く理解できないエリックだったが、一つだけ気になったところがあった。


(クーが言うって誰だろ? 妙に親しいような印象だけど……)


 もやもや感がぬぐえないエリック。話の流れから12勇者の誰かなのだろうけど……。

 考えるよりも先に、エリックは口を開いていた。


「クー。アイツって、誰?」


 口にした後で、自分で思ったよりも語気が高まったことに気付くエリック。クーは予想外のエリックの声に驚くが、一番驚いたのは声を出したエリック本人だ。


「ごめん。忘れて、クー。……今は関係ないよね」

「あ……うん」


 思わず落ちる沈黙。気まずい雰囲気が流れ、次の会話の糸口を見つけ出せずにいた。

 だがその沈黙はすぐに破られる。


「見つけましたよエリック・ホワイト! 今度はあのような卑劣な手段は通用しません! 大人しく縛につく気がないのなら、勇者の料理でその気にさせるまで!

『かまどの勇者』クドーが貴方を捕らえてみせます!」


 窓を破って入ってきたクドー。驚くセイレーン従業員をよそに、高らかに宣言した。

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