「さてどうしたものか」

「さてどうしたものか」


 エリック達は冒険者ギルドの個室を借りて、相談していた。ヴィネは『お仕事がありますので』と個室の鍵をかけて去って行った後である。


「色々問題はあるけど……とりあえず服着替えない?」

「着替えたいけど脱げないのよ、これ!」

「なんつーか、脱ごうとする気力がわかないっていうか。恥ずかしいんだけど、脱ごうとしようとすると気力が萎えるんだよなぁ……」

「はい。<制約ギアス>に似た強制力ですね。精神的に制限をかけて一定の行動を封じる魔術です」


 バニーガールを見て何とも言えない表情をするエリックに、クーとネイラとケプリは答える。本人たちも着替えたいのだが、その行動に移ろうとすると『まあいいや』という感じで後回しにしてしまうようだ。


「へ? スキルなの、これ!?」

「はい。調理自体も<自動戦闘剣ダンシングソード><空間壁炉スペースオーブン>をしようしていました。焼き時間などの短縮は<限定時間操作リミテッド・タイムアクション>を。そして料理を食べた人間に<幻想結界ファンタズムワールド>で世界観を誤認させた上に姿を変化させ、それが正しいと強制力を持たせたのです」

勇者ブレイブ、やばばだわー。規格外の魂チートスキルをこんな風に使うとか」

「アホっぽいけど……実際にやられるとどうしようもねぇな、これ。ドラゴンを倒すほどのパワーでやられてるんだからな」


 ケプリの説明に頭を抱えるクーとネイラ。神から授かった規格外チート能力を、『料理を食べさせて、派手にアクションさせる』事に特化させたのだ。抵抗するなら、神の呪縛から逃れるほどの力が必要になる。


「……よくわからないことが分かった」


 初めて勇者ブレイブに接したエリックは、そう告げるしかなかった。とにもかくにもこちらの常識が通じないのだ。単純な力の差もあるが、その方向性が違い過ぎてどう対処していいかわからない。相手が逃げていってくれたのは、本当にただの幸運でしかなかった。


「まあ、戦って勝つ必要はないのが救いかな。二日逃げ切れば、無実は解けるわけだし」

「……そう言って、さっきあの女が来たじゃないの。もうやーよ、あーし」

「まあ……僕も色々目のやり場に困るんで、出来れば遠慮したい」


 エリックは三人のバニースーツを一瞬だけチラ見して、目を逸らす。

 クーは白ウサミミ白スーツと、白を基調としたバニーガールだ。それがクーの褐色と相まって、見事なコンストラクトを見せている。豊満な胸の谷間が垣間見え、形のいい臀部と白スーツの境目がエリックの脳裏から離れない、

 ネイラは赤ウサミミ赤スーツの赤バニーだ。武術家の肉体を隠すことなく魅せ、同時にセクシーさを強調させる。すらりと伸びた健康的な足を包む黒の網タイツがいろいろな感情を扇情させる。

 ケプリは黒ウサミミ黒スーツの黒バニーだ。未成熟な肉体は起伏がなく、だからこそ生まれるクーやネイラにはない魅力がそこにあった。未来の可能性を感じさせる幼い肉体。それに性的な衣装を着せることで、背徳的な感情を想起させていた。


「ケプリの予想ですが、時間経過で解除されると思われます。

 先の奴隷商人襲撃の際にも『かまどの勇者』が奴隷に似たことをして、時間と共に洗脳が解けた話がありましたし。最も、どのくらいかかるかはわかりませんが」

「うーん……なら夜まで待とう。それまでに解ければ問題ないし、人目がなければ移動もできると思う」

「へ? エリっちどこか行くの?」

「もう一回勇者がここに来るかもしれないからね。そうなる前にどこかに身をひそめたいんだけど……」


 何処に逃げるか悩むエリックに、ネイラは胸を叩いて告げる。


「そういう事ならオレに任せな! 口が堅いダチコーならいくらでもいるぜ!」

「アンタ……意外とコミュ強いわね」

「夕日の河原で殴り合えば誰だってシンユーなんだよ!」

「それ、殴られて下手に出てるだけじゃね?」

「友人と思っているのは自分だけ、と言う人間関係ですね」

「お前らぶん殴るぞ!」


 一抹の不安はあったが、他に当てもない。エリック達はネイラのコネに頼ることにした。情けないことにエリックのコネは冒険者関連で、しかもエリックの冒険者としての地位と名声が低いためこの状況を庇ってくれるとは思えないのだ。


「とにかく夜まではゆっくり休もう。体力はともかく、色々あって精神的に疲れた……」

「んー。じゃあゆっくりきゅーけーい!」

「おー。オレも少し休むぜ」

「そうですね。ここから先は何時休めるかわかりません。今のうちに癒しておくのは重要です」


 言いながらエリックの座る椅子に他の椅子を並べ、エリックの両サイドにケプリとネイラが。背後からクーが抱き着くようにして寄り添った。三方向からのバニーサンドイッチ。三面兎歌である。


「い、いええええ!? あの、休憩するんだよね!?」

「うん。エリっち成分吸って休憩するの」

「体力的は面はともかく、精神的な部分を回復しないとな」

「癒しは重要です。ふんすー」


 戸惑うエリックをよそに、三人は遠慮なく寄り添い抱き着く。


(うー。ウサギに負けたとかマジ屈辱! あの勇者マジおこなんだから! エリっちでぬくもって、傷を癒さないと!)

(クッソ! 大将の前で大恥かいちまった。……たまには、甘えたって文句は言われねぇよな)

(チートスキルとはいえ、ウサギ料理にNTRるとかありえません。ファラオを利用するようで恐縮ですが、これぐらいは許してもらいます)


 クーとネイラとケプリは、勇者クドーとの戦いを思い出しながらエリックを抱き寄せる力を強めていく。そうすることで、少しずつ心が癒されていった。


(まあ、皆がそれで幸せなら、いいかな?)


 そんな気持ちを察したのか、エリックは抵抗することなく力を抜く。


(…………僕の方は、色々我慢しなくちゃいけないんだけど……!)


 三人分の肌のぬくもりと弾力を感じながら、エリックは必死に『男』として昂る心を押さえ込んでいた。

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