「つまり……どういう事?」
「さあ、凶悪犯エリック・ホワイト! ここに隠れているのは解っています!
大人しく出てくるなら良し。出てこないなら『かまどの勇者』が成敗してくれます!」
勇者クドーの言葉は冒険者ギルドのロビーに大きく広がった。そして――
「…………出てきませんね?」
何の返事もない状態が5分ほど続き、クドーは首をかしげる。
「失礼します。ホワイト様は此処にはいません」
事務室から顔を出したギルド事務員。その言葉に頷くクドー。
「そうですか。ありがとうございます! 何処に行ったかわかりますか?」
「勇者様。国防騎士が捜索しても見つけられない相手を、冒険者ギルドに座りっぱなしの事務員が見つけられると思いますか?」
ヴィネは『知らない』という単語を避けて言葉を返す。
「……むむ、<
クドーはそう言って手をあげる。嘘発見のスキル。ヴィネは『知ってる』とも『知らない』とも言っていない。故に嘘は言っていないと判断されたようだ。クドーが『見つけられないんですか?』と聞いてくればアウトだったが。
「ここに居ないのなら用はありません。それでは!」
言って扉を蹴破って出ていくクドー。その足音が遠のいてから、ヴィネは事務室に向き直る。
「去ったようです。暫くは戻ってこないでしょう」
そこには、エリック達四人が息をひそめていた。安どのため息をつき、力を抜く。
「ありがとうございます、ヴィネさん」
「いいえ。私もギルドロビーでアラクネと聖人と元太陽神を戦わせたくなかっただけです」
「あはは……それにしてもどうしたものか。疑いを晴らそうにも取っ掛かりすら見えない。せめて事件の背後関係さえ分かればいいんだけど」
ため息をつくエリック。嵐のような勇者の行動にいろいろ持っていかれたけど、問題は自分にかけられた冤罪をどうするかだ。それを解決すれば、勇者も追ってはこないだろう。
誰かがエリックに冤罪を仕掛けようとしているのは間違いないのだ。蟲の毒、という大雑把な理由で国防騎士に逮捕に踏み切らせる相手なのは間違いないのだが……。
「でもそんな雲の上の話。僕に分かるはずが――」
「分かりますよ」
「…………え?」
「はい。ホワイト様冤罪の背後関係ですよね。調査済みです」
「こぉらぁ! なんでそれ早く教えないのよ!」
「聞かれませんでしたので。あと重要度としては勇者の存在が大きかったかと」
怒るクーをいなすように告げるヴィネ。
「あの……教えていただけるんでしょうか?」
「はい。ギルド員が犯罪者呼ばわりされる状況はギルドとしても看過できません。ギルド長を始めとしたメンバーが掛け合って、無罪の証明に動いています」
「マジー? だったらあーしら何もしなくていいんじゃね?」
「そうですね。ですがそういった動きもあってホワイト様を封じようとする動きが活性化しています。これまでは国防騎士だけでしたので、そちらのお墓まで捜査が届くことはなかったのですが」
ヴィネはケプリの方を見る。どうやらぷらみっどに籠っていたことも見ているようだ。
「ここで予想外のことが起きました。『かまどの勇者』クドー様の来訪です。
事件を知ったクドー様は怒りに燃えてホワイト様の捜索を開始。どういうスキルを使ったのか不明ですが、空間転移の跡を捜査して捜索範囲を狭めています。下手に転移を行えば、探査スキルとクドー様自身のスキルですぐに追いかけてくるでしょう」
「デタラメだな」
ネイラの呟きは、エリック達全員の共通の意見だった。遥か彼方のピラミッドに転移するケプリも規格外だが、それを追ってこれる勇者も大概だ。
「つまり……どういう事?」
「勇者に捕まらないように逃げてください。捕まって国防騎士に連行されれば、ホワイト様は強引に処罰されるでしょう」
「無実を晴らそうとピラミッドから出たことが仇になりましたか。まあ過ぎたことは仕方ありません」
「だな。どんくらい逃げればいけそうなんだ?」
「今から40時間ほど。二日ほどです」
「あー、もう! やってやろうじゃないのよ!」
やけくそ気味に叫ぶクー。ネイラもケプリも似たような表情をしていた。
「でもまあ、二日ぐらいならギルドに籠れば何とかなりそうかな。
一度探したところはもう探さないだろうし、虫を使って探査すれば近づいて来てもすぐにわか――」
「さあ、凶悪犯エリック・ホワイト! ここに隠れているのは解っています!
大人しく出てくるなら良し。出てこないなら『かまどの勇者』が成敗してくれます!」
る、という形で止まるエリックの唇。扉を開けたのは、白い服を着た料理人風女性。『かまどの勇者』クドー。
「…………なんで、戻ってきたの?」
「勇者の勘です!」
なにそれ。エリックは思わずそう呟いていた。
「エリック・ホワイトですね!
貴方はデットチリペッパーアリを使った毒による連続殺人事件の犯人! そして天空神の司祭に脅迫をし、貴族の別荘を破壊し、そして今見て気付きましたが嫉妬神眷属の残渣が見られます!」
びしっ、とこちらを指差すクドー。反論しようと思ったエリックだが、その動きが止まる。
「……うう、最初の奴以外は全部心当たりある……」
「アラクネと街を襲ったミイラの親玉を使役してる、まで付いたら完璧だな」
「うっさい、商人襲撃ヤンキーエルフ」
「あれは不可抗力です。自己防衛の結果だとケプリは主張します」
冷静に考えれば、世界を魔物から守る
「いや、とりあえず毒の殺人は違うから!」
「――その罪、ここで『かまどの勇者』クドーが消し去って見せましょう!」
「聞いて、お願い!?」
エリックの叫びは、勇者の熱い魂と叫びで消え去った。
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