緊急ミッション『勇者クドーから逃げきれ!』(難易度Aランク)
「…………きをつけます」
「エリっちのアホ! 無茶しすぎ! 体弱いんだから大人しく下がってればいいのに!」
「ごめん。迷惑かけた」
「ごめんじゃないし! そもそもあんな毒鳥無視すればよかったんだから! 騎士とかに任せておけばよかったじゃん!」
「でもそうなると無関係な――」
「あーもう! 全然エリっち解ってない!」
コカトリス戦から数日後。動けるようになったエリックに向けて、クーは怒りの拳を振るっていた。
「そうだぜ大将。毒の耐性とか考えれば真っ先に逃げるべきだったんだ。そういう合理性はオレよりも大将が持ってるはずだぜ」
「う、それはそうなんだけど……その」
「言っとくけど、次同じことあったらケツ叩いてでも逃がすからな」
「それは怖いなぁ……努力するよ」
ネイラの剣幕に力無い笑顔を浮かべて答えるエリック。腕を組んで苛立ちを押さえるネイラを見て、本気でやることを察していた。ネイラの蹴りは本気で痛い。
「
「それは……うん」
「ピラミッドがなければ死亡していたでしょう。最もそうなったとしてもミイラにする肉体が残っているので復活は可能ですが」
「アンデッドになるのはできれば……」
「いいえ、強制的に復活させます。クー様とディアネイラ様は難色を示しましたが、死に分かれるよりはマシかと納得されました」
元神であるケプリの眷属にはミイラがいる。そのミイラを統括するゾルゴに頼めば、体内の毒を全て抜いてミイラ化することは容易いという。倫理観的な問題もあるが、クーとネイラはそれでもかまわないという。
「そーよ! 包帯グルグル巻きとかヤだけど、死んじゃうよりマシなんだから!」
「寿命で死に別れるのは仕方ねーけどな。でもそうでないなら生きてほしいぜ」
「ケプリも同意見です。
具体的には三人の八つ当たりがあの街を襲うでしょう」
「……それは」
アラクネのクーと、
「いやいやいや、いくらなんでもそこまでは」
「エリっちがいなくなったら、するよあーし」
「ヘラクレスが承認しなくても、オレはやるぜ」
「はい。
「…………きをつけます」
三人の座った瞳を見て、エリックは頷いた。本気だ。
「まあ、
「具体的には大将にかけられた疑いをどう解くか、だな」
「あーしはもう全部捨てちゃって此処でひきこもるのもいいかなー、って思うんだけど」
三人の視線を受けて、エリックは口を開く。
「そうもいかないよ、クー。人が死ぬのは止めないと」
「ああ、そいつに関しては問題ないぜ。大将が寝込んでから通り魔は出なくなったみたいだ」
「そうなの?」
「はい。あの後ディアネイラ様とケプリで何度か街に出かけましたが、通り魔事件は聞かれなくなりました」
「そっか……。それは良かった」
「良くはねぇよ。大将の疑いは晴れてないんだ。街には賞金首のポスターまで張られてるんだぜ」
「でも、人は死んでないんだよね? なら良かったかな」
心の底から安心したようにため息をつくエリック。彼の懸念はそこにあったようだ。
「
「いや、それは。さすがにずっとここに居るわけには――」
「食料の心配なら不要です。300年ほどの貯蓄がありますし、ピラミッドに居る限りは病気の心配もありません。年中快適な気温を保てる快適空間。どうです? 理想的だと思いませんか?」
「まあ、そう言われれば……」
「何よりも幼女に飼われるという状況。全てを幼女に委ね、自堕落に生きていく。そんな生活にあこがれたりしませんか?」
「そこまではないかなぁ」
「ちっ」
露骨に舌打ちするケプリ。その様子を見て、エリックは苦笑しながら言葉を返す。
「ケプリが僕を自堕落にならないように心配してくれてるのは解るよ。だから無理に悪い性格を演じなくていいよ」
「……む。そういう気づかいをさらりとするのは流石
「籠らないんならそれでいいかも。っていうか、エリっちが悪く言われ続けるのはムカツク」
「オレもだな。ハメられて黙ってるなんて性に合わねぇぜ」
「というわけで決定です。
「あー、えーと」
クーとネイラが挙手し、流れるようにケプリも手をあげる。有無を言わさない話の流れに口を挟めず、エリックはどうしたものかと考えた。
「やっぱり犯人を捕まえるしかないんだよなぁ。でももう手掛かりはないし。
となると国防騎士を納得させるしかないかぁ……」
話聞いてくれるといいけどなぁ。不安に駆られながらエリックは立ち上がった。
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