「……その『かまどの勇者』に」

「オラァ! ぶん殴りに来たぞ!」

「何モンだ……うわあああああああ!」

「ケプリは泥で動きを封じます。こねこね」

「敵襲か!? おい、奥の手を出せぇ!」

「クックック。こいつはとあるキメラ錬金術師に作ってもらったサメクラゲ――」

「引っ込んでろ!」

「な、なんだと……!? まさか一撃で――」


 ネイラとケプリが『クリムゾンケージ』に乗り込んで半刻後、戦闘員及び構成員は完全に戦闘不能になっていた。


「けっ、歯ごたえのねぇ奴らだ。準備体操にもなりやしねぇ」

「正直、ケプリのサポートは不要でした。まあ、ディアネイラ様に楽しんでもらうのが目的ではないのでどうでもいい話ですが」

「お、お前ら……何が目的だ? 金か? それとも、奴隷が気に入らないとかいうかまどの勇者の差し金か?」


 壁に体を預けて、なんとか立っている男が問いかける。それなりに地位の高い人間なのだろう。武器も他の構成員よりもワンランク高いモノを着ていた。それも戦闘行為で砕けてしまったが。


「あー……たまたま? オレら正直、金とか奴隷とかどうでもいいし」

「そうですね。金銭面で困ることはありませんし、奴隷も調べたところきっちりと教育をして生活な環境で生活させているようです。質の高い奴隷を売り出すというスローガンのようで、ケプリはとても好感が持てました」

「あ、どうも。奴隷も見た目と対応がきっちりできないとこの世界渡っていけなくて……じゃなくて! ならなんで襲ったんだよ!」

「えーと……そうそう! コカトリス! お前らコカトリスの卵を扱っただろう! おかげで酷い目にあったんだぞ!」


 ネイラの指差しに首をひねる男。希少な品物だったこともあり、すぐに何かに思い至ったようだ。


「は……? ああ、あれか。いや待て孵ったのかあの卵!? だったら大惨事だぞ!」

「あ、コカトリスに関しては問題ありません。既に終わった話です。とりあえずここから流出したというのは確かなんですね?」

「いや、流出って言うか……あの卵は無理やり押し付けられたんだ」

「はぁ? 適当なこと言ってるんじゃねぇぞ」

「ホントだって! ……その『かまどの勇者』に」


 男の話を纏めると、こういうことになる。

『クリムゾンケージ』は裏稼業として行き場のない獣人を受け入れ、奴隷として教育してきた。それ自体は立派な犯罪だが、『クリムゾンケージ』がそれを行わなければ死んでいく獣人がいたことも事実である。

 そんな所にやってきた『かまどの勇者』。勇者は『奴隷売買許すまじ!』と言って殴り込み、多くの奴隷を鎖から開放した。勇者の特性で獣人達のお腹を満たすことが出来たとか。

 ……問題はその後だ。『かまどの勇者』はそのまま奴隷達に『君達は自由です! 好きに生きるんですよ!』と言って去っていった。残された奴隷達は『自由って何だ?』『どうやって生きればいいんだ?』と悩んだという。当然だ。生きるための指針を与えずに自由を与えても、何をしていいかわからない。航海術を教えずに海に投げ出すのと同じことだ。

 結果、奴隷の多くは住み慣れた『クリムゾンケージ』に戻ってくる。だが勇者はそれを『二度も奴隷売買を行う卑劣な組織!』と再び襲撃したという。そして、


「二度と悪さが出来ないようにこの卵をあげます! 悪いことをすれば卵が孵り、貴方達を石にするでしょう!」


 そう言って、コカトリスの卵を置いて帰っていったという。


「…………なんだそれ?」

「意味不明ですね。諸々の経緯もそうですが、最後に卵を置いていくのもです。実際、その卵は売買できたのですから」

「まあ卵の受け渡しに関しては『毒物の扱いなら慣れている。刺激することなく運搬できる』とか言ったんで、恐る恐る任せたんだが……上手くいったみたいだ」


毒使いポイズン・マスター』スキルで毒を持つ魔獣に命令し、孵化しないようにしたのだが、それは三人にはうかがい知れない事である。


「で、商売再開しようとしてこのザマだ。なあ、あんたら本当に勇者の仲間じゃないよな?」

「本当に無関係だ。その卵の取引記録さえもらえればすぐに帰るぜ」

「んな非合法な商売モンの記録なんか残すかよ。だいたい押し付けられたヤクネタだぜ」

「となると『かまどの勇者』から話を聞きだすしかないようですね。

 ……ファラオの無実を晴らすために奔走していたら、まさか勇者ブレイブまで出てくるとは。やはりファラオは世界を統べる魔王の素質ありと思います」

「まあ、大将が大物ってのは認めるがな。

 しかし勇者ブレイブか。異世界の奴らってホント、常識通じないもんなぁ」


 と、いきなり殴り込みをかけたエルフが頷く。お前が言うな、というツッコミを男はかろうじて抑えた。


◆       ◇       ◆


 かくしてコカトリスの卵をめぐる調査は一旦ここで打ち切られることになる。

 この後ネイラとケプリは街中を軽く見回った後に、ピラミッドに転移して身をひそめる。街で得た情報はいくつかあるが、その中で優先度が高いモノをはというと――


『かまどの勇者、クドー。オータムに公式到来!』


 十二勇者の一人の到来に、オータムの街は大きくわいていた。

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