幕間Ⅷ コカトリスを求めて
「ピラミッドパワーを信じてください」
「えりっちぃぃぃぃぃぃぃぃ…………」
「おい、本当に大将は大丈夫なんだろうな!?」
「はい。寝台に寝かせれば、ピラミッドの力で癒せます」
クーがなき、ネイラが怒鳴り、そしてケプリが無表情に頷く。
三者三様のこの状況は、エリックがコカトリスの毒で意識を失い、目覚めない事が原因だ。
コカトリスとの戦いの後、ケプリは全員まとめてピラミッドに転移した。全員の了承を取っている余裕はない。それだけエリックの症状は危険だったのだ。
寝台に寝かせ、ピラミッド内の力の向きをエリックに向けて、ようやくひと段落した状態が今である。
「ねえ、ケプリん本当に大丈夫なの!? エリっち、起きるの!?」
「お、おちついでく、くだ、おふぅ……」
「やだよ! あーしエリっちがいなくなったら泣くから! ガチ泣きするからぁ!」「いや、既にマジ泣きしてるだろうが。あとチビッ子揺らし過ぎて気を失いそうだぞ」
泣きながらケプリの肩をもって揺らすクー。ぐらんぐらんと頭を揺らされて頭を回しているケプリ。それをどうにか止めるネイラ。
「だって、エリっちがぁ……!」
「ですから大丈夫です。ピラミッドパワーを信じてください」
「なんか怪しい宗教っぽいんだよなぁ、その言い方」
「ケプリは元神なのですが何か?」
そう言えばそうか、と頭を掻くネイラ。宗教っぽいどころか本物の神だ。元だけど。
「とにかくこの寝台で寝ていれば、問題はありません。仮に死亡してもミイラとなって復活できます」
「うええええええええええ。そんなエリっちやだぁ……」
「すごいんだけど、遠慮したいな、そいつは」
「むぅ。理解されないとは悲しき。やはり
「その大将が今まさに命の危機なんだけどな」
「エリっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
寝台の横で泣き続けるクー。それを見て、ネイラはため息をついた。
「落ち着けよ蜘蛛女! 大将は大丈夫なんだって!」
「でもぉ、でもぉ……!」
「とにかくしばらくは何もできねぇんだ。大将が起きるまでお前は傍にいてろ」
「うう、うん……うん。あーし、あーし……」
泣きじゃくりながらも、どうにか落ち着きを取り戻すクー。
「おや。
「あんな蜘蛛女見てたら、そんな気うせるんだよ」
「おやまあお優しい。確かに今のクー様には何かの役割を渡した方が良さそうですしね。自責で潰れかねません」
頷くケプリ。『やっぱり無理してでもエリっち逃がしとけばよかったんだぁ! あーしの馬鹿ぁ!』とか勝手に自分を追い込みそうな雰囲気ではあった。
「まあ、なんかしねぇと収まらないのはオレも同じだけどな」
「しかしできる事は限られます。ディアネイラ様は他者治療の術を持っておられない様子ですし。暫くは待機するしかないかと」
「いや、町の様子を見てくる」
ネイラは腕を組んでケプリに言う。
エリックが国防騎士に狙われてから、それなりに時間がたった。それから状況がどうなったかを確認する必要がある。その情報を元に行動を決定するのだ。
「確かに。
「……オマエ、絶対ありえないと思ってるだろう」
「ディアネイラ様もそう思っていないから情報収集しに行くのではないですか?」
「まあな。つーわけで行ってくる。チビッ子はどうする?」
「むしろケプリなしでどうやってあの町まで行くつもりですか? 転移使えるのはケプリなんですよ」
「確かにそうか。帰りの足もいるしな」
「ケプリを乗り物扱いしているのは不服ですが、我慢しましょう」
そんなケプリの不満を聞き流しながら、ネイラはクーに向き直る。
「つーわけで、大将は任せた」
「水と食事の類はいつもの所に置いてます」
「うえぇぇぇぇ、ネイラぁ、ケプリん……!」
「だああああ、落ち着け! すぐに戻ってくるから!」
「
抱き着いてくるクーの頭を撫でるケプリ。抱き着くままにさせるネイラ。暫くして落ち着いたクーが離れたのを確認し、ケプリは転移の術式を展開する。眩暈に似た奇妙な浮遊感の後に、コカトリスと戦った納屋の前にネイラとケプリは転移した。
「先ずは冒険者ギルドからだな。ついでに酒飲んでくか」
「まさかとは思いますが、それが目的だったのですか」
「馬鹿言うなよ。違和感なくギルド内で情報を聞き出すための……アレなんだよ!」
「どれなんですか」
そんなことを言いながら冒険者ギルドに向かおうとするネイラとケプリ。だが途中でネイラの足が止まった。
「どうしました、ディアネイラ様?」
「納屋の中に誰かいるぜ。音が聞こえてきた」
「よく聞こえましたね。さすがはエルフ」
声を潜めて身をかがめるネイラ。それに倣うようにかがんで進むケプリ。ネイラが息をひそめて開いている扉から中を覗き込む。
「……黒い服着たヤツがいる」
「昨日の人ですか?」
「いや。背丈が違う。だけどなんだ? 地面に這い蹲って何か探してる……って言うかなんかもがいてるぞ。よく見たら顔色悪いし。ヤベェ!」
「いや。対したことではござらぬ。毒と火傷と感電と暗闇と重圧を喰らっているだけげござるから」
飛び込んだネイラに動じることなく、黒装束は立ち上がり手をあげてあいさつした。
「いや、それかなりヤバくね?」
「はッはッは。心配ご無用。この程度、拙者からすれば日々の鍛錬でござぐぼはぁ!」
「あ。死んだ」
「なんのまだまだ。このマツカゼ、この程度のバッドステータスでは参りませんゆえ」
バッドステータスまみれの忍者――マツカゼはさわやかに笑いながら二人の乱入者に手をあげた。
その顔色は、とてもさわやかとは程遠いのだが。
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