「ば、かな……!」
石化――
言葉通り、生物を石にする魔術の類である。呪いに属するもので、生命活動を完全に停止させて物質変化させるという二重の魔術行使が成されている。抵抗そのものも難しく、魔眼などの『視界に入れる』という制限がある形式はあらかじめ対策をとっていなければ生物ならほぼ抵抗不可能と言ってもいいだろう。
石化の真価は、かけられたものが何もできなくなることである。生命活動が止まっているため一切の行動がとれない。武器を振るう事はもちろん、動作を必要とする魔術行使は不可能。脳までもが石になっているため、思考することすらできない状態である。外部から呪いを解除することをしなければ、状態解除はできないのだ。
「ば、かな……!」
だから、『毒使い』は目の前で起きている現象が信じられなかった。
「あっぶなー! 扉を開けての石化の魔眼とか久々にくらったわ!」
「いや、タチ悪すぎだろそれ。普通にデストラップだぞ」
「実際危なかったからね。ありがとう、ケプリ」
「いえーい。ケプリの<
石化の瞬間にケプリが<
「つーかあのペストマスク。石化の魔眼持ちだと?」
「んー、クチバシあるからコカトリス? 羽根と蛇の尻尾あるし」
「あの……
石化の魔眼。羽根。蛇の尻尾。魔物として生きてきたクーが、その正体を看破する。
コカトリス。ニワトリと蛇の姿を持つ魔物である。人型となっているのはクーと同じく<
その身体は毒そのものだ。攻撃してきた武器を腐食させ、触れた水を汚染し、吐息で周囲の生物を殺し、石の魔眼で飛ぶ鳥すら落とすという。いるだけで周囲の生物を殺していく毒性の高い魔物。街中で暴れれば、間違いなく大災害になる存在だ。
「だな。今は制御されているみたいだけど、そのタガが外れればヤベェぜ。
おい、ドクロ面! お前がコイツを制御してるのか?」
「…………」
ネイラの問いかけに、答えるつもりはないと沈黙するドクロ仮面。石化が聞かなかったという動揺もあり、次の行動を決めかねていた。
(何故こいつらに石化が利かなかった? コカトリスの情報を知って、対石化の薬草を用意したのか?)
(つまりこいつらは始めから『毒使い』の特性を知っていて、かつコカトリスがここに居る事を知っていたということか?)
(情報収集担当は、あの男か――!)
ドクロ面の手が動き、その手から極小の針が投擲される。だがその針はエリックに当たる寸前に糸で絡み取られた。
「エリっちを狙うんなら、容赦しないわよ!」
「解放。仮面を外せ」
エリックを守るように動いたクー。その隙を縫うように『毒使い』はコカトリスに<
「……げふっ!?」
「何これ、ヤババ!? ちょ、エリっち大丈夫!?」
「くそ、なりふり構わねぇってか! おいチビッ子! 神様パワーとかでどうにかならねぇか!」
「ケプリは魔眼無効化で手一杯です。あのトリ、魔眼全開で発動してやがるのでちと厄介」
毒の空気を吸い込み、肉体的に強くないエリックは咳き込むようにしてうずくまる。魔物のクーでさえも長くここに居れば耐えられないだろう。
「いったん退くぞ。このままだと――」
「駄目……このままだと、周りに被害が出る、すぐに、止めないと……!」
撤退を促すネイラの意見を、息絶え絶えになりながら止めるエリック。呼吸するのもつらそうな状態で、絞るようにして声を出す。
「
「そんなことをしてる余裕も……ない……全力で、止めないと……」
「しかし――」
「わーったわよ、サクっとやりましょ!」
言いすがるケプリを大声で制するクー。
「クー様」
「ケプリん、今は時間ないの。
で、どうすればいいのエリっち?」
言いすがろうとするケプリに、短く告げるクー。その表情を見たケプリはそれ以上の追及を止める。クー自身も納得はしていないという表情だ。
(ったく、エリっちいつも無茶しすぎ! あとでビンタだからね!)
エリックもその表情から後が怖いなぁ、と察して苦笑する。その表情も毒の苦しさですぐに消えた。
「ケプリは、そのまま石化魔眼を止めて……。あとは――」
息絶え絶えに作戦を告げるエリック。詳細を確認する時間も惜しい、とばかりにクーは頷き、ネイラはヘラクレスを身に纏った。不服そうにケプリが口を開く。
「了解しました、
「ケプリのことを……信用していないわけじゃ、ないから、適材適所って、事で……」
「コカトリスは殴った場所毒移されるからな、注意しろよ蜘蛛女!」
「アンタこそ、プチキレしてぶん殴るのはやめてよね。ガチでやりそうじゃん」
軽口を叩きながらも、動き出す四人。
毒の領域と濃度は、少しずつ広がっていく――
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