「大将、オレだけを見てな」

「……なんでアンタら下着なのよ?」

「色々あったんだよ、聞くな!」

「暗き中、人の目が合ったかもしれない。なかったかもしれない。しかしケプリはファラオの為に辱めを耐えながら進んだのです……。

 どうでしょう、ファラオ。ぐっときて頭を撫でたくなりません?」

「あ、うん。お疲れさま」


 合流を果たしたエリック達はまず情報の交換を行う……前にネイラとケプリが下着で走ってきたことを指摘した。泥人形で服は作れないため、仕方なく着せたという言葉に、クーは呆れた顔をする。


「アンタら……わーったわよ。服作るから待ってて」

「んで、大将達はなんでこんな所に?」

「ええと、殺人鬼を捕まえようとして……相手は犯罪とかそういう事をしている相手を襲うから、どうにかそれで誘えないかって考えてて」


 先ほどのクーとのやり取りを避けるように説明をするエリック。


「成程な。だけど大将は……言っちゃなんだけどそういうに似合わないぜ」

「はい、ファラオの慈悲深いお姿はあまりそういったことには向かないかと」

「ウン、ソーダネー」

「はっはっは。まあそういうのは任せろや。オレがやってやるぜ」


 自分を指差し、笑うネイラ。

 確かにエルフという外見はともかく、荒事が得意なネイラはそういった行為をして様になる。いい意味で、拳を握って誰かを殴る姿が自然なのだ。端的に言えばカッコいい。


「あの、我慢するけど出来るだけお手柔らかに、ね」

「力抜けよ、大将。力んじまったら逆に大変だぜ」

「うん。まあそうなんだろうけ――ど!?」


 肩を押されて、ネイラに壁に叩きつけられるエリック。そのままネイラは手を突き出すようにしてエリックの逃げ道を塞ぎ、胸ぐらをつかんだ。足を動かせないように太ももを絡めてくる。

 端正なエルフの顔の造形。形のいい胸とそれを包み込む布の下着。そして触れ合う太もも。そんな状況でも鋭い笑みを浮かべるネイラ。あ、やばい。ネイラから目が離せない。改めてネイラの魅力に困惑する。


「大将、オレだけを見てな」

「え、ええ!? こういうのは男の方がやるんじゃ――」

「バーカ。んなもんどっちでもいいんだよ。オレの気持ち、わかってんだろ?」


 言ってネイラはゆっくりと唇を近づけてくる。エリックも抵抗することなくそのまま――


「何やってんのこの男女エルフ! おまえがイケメンか!」

「わぶっ!? なんだよいい所だったのに!」


 唇が重なる寸前に、服を完成させたクーが無理やり服を着せる。頭を通したネイラが不満げに唇を突き出した。


「任せとけ、ってのは何処行ったのよ!」

「だからあれだよ。夜の密会。そういう事をして相手を誘ってんだよ。何ならお前もやるか?」

「う……。いや、その、あれよ。周りの警戒が薄れるかもしれないからなんというか」

「なんで歯切れ悪いんだ?」

「っていうか! エリっちもなんでツッコまないのよアホエルフの奇行……に?」

「あれ? 大将何処行った?」


 ついさっきまで壁際に居たはずのエリックは、いつの間にか地面に倒れ伏していた。仰向けになって、その上に下着姿のケプリが馬乗りになっている。


「あれ? 僕どうしてこんな態勢に?」

「<泥こねこねアースオペレイション>で地面を回転させて転ばしました。柔らかくしたので、転ばされても痛くなかったはずです」

「うん。痛くはなかった、けど‥…その、ケプリは何を?」

ファラオ。ケプリは考えました。要は『犯罪に見える』形であれば問題ないと。そしてファラオに負担をかけるわけにはいかないと」


 エリックがケプリを見上げれば、まだ幼さを残した肢体――ケプリ自身は5000歳ほどの元神なのだが――があった。ほのかな明かりに照らされた褐色の肌。起伏のない体はむしろ手を出すことを憚れる神聖さがあった。


「この状況、誰がどう見ても犯罪臭バリバリです。幼女を馬乗りさせる男性。ああ、実にケダモノめいた姿なのでしょう。そう、それでいいのですファラオ。貴方は全てを蹂躙する覇王。ケプリの全てを壊すように攻め立て、その欲望を吐き出してください」

「え? あの、ケプリ色々待って! まるで僕が変態のような言い方は――」

「何も言わずとよいのです、ファラオ。ただケプリだけを見ていてください。貴方の為に尽くしますから……」


 絶対の忠誠をもって、エリックを見るケプリ。それは子を見る母親のように慈悲深く、孫を見る祖母のようにやさしく、弟を見る姉のように頼もしく、兄を見る妹のように愛おしく。その全てをもって、エリックを見ていた。


「先ずは邪魔な服を脱いd……おおぅ!」

「見た目も含めて完全にアウトよ! 服着ろケプリん!」

「そっかー。大将、尽くすタイプに弱かったんだな。今少し堕ちかけてたぜ」

「え。マジ! ちっちゃい方がいいの、エリっち!?」

「いや、そんなことは!? その、ない、と思う……」

「なんでそこで断言しないのよー! わーん!」


 どったんばったん、再度。

 ――そんな四人に、近づく一つの影があった。

 

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