「はい。問題は――」

 屋上でエリックとクーが話し合っている間、ネイラとケプリは――


「エールお替り! 大将につけといてくれ!」

ファラオの財布はケプリの財布です。今までのツケを含めて全部払いましょう」

「……やめてやれ。大将惨めになるから。あ、ツケはなしで」


 冒険者ギルドのテーブルで酒を飲んでいた。

 エリックが逃げた後、国防騎士達はほぼ全員エリックを追っていた。数名の騎士が戻ってくる可能性を考慮して数名ほど見張りとして待機しているが、冒険者達に睨まれて険悪なムードを作っている。

 国防騎士達はエリックの関係者としてネイラのことを知っているはずだ。だがネイラの動向を気にも留めずに見張りをしている。


「オレのことは無視かよ。ケッ!」

ファラオの身だけを狙っているという感じでしょう。まあ、襲われても問題ないでしょうが」

「蜘蛛女に先越されたみたいでムカツクんだよ。ここで襲ってきてくれれば大将の援護射撃になると思ったのに」

「流石に援護射撃は的外れですが、あのクー様に先を越されたというのは事実。こうしている間にもラヴでコメな波動がひしひしと伝わってきます。2000文字ほどのフラグがたった感じです」

「何言ってるんだ、このロリ神」

メタ視線はさておき、急ぎファラオに合流する必要があります」


 エールを飲み干したケプリが指を立てて真面目モードに移行する。うわ、この幼女酒強い、と慌ててエールを飲み干していくネイラ。


「そうなるとファラオがどう行動するかを考えないといけないわけですが……一番安全なのはこの街を出る、と思われます。非常線を張られても、クー様なら易々と突破できますし」

「だな。だがそれは――」

「ええ、ないでしょう。ファラオが斯様な状況を置いて逃げるはずがありません」

「ねぇな。自分に責任が無くても、自分のせいで捜査が遅れるからとか言って逃げないだろうぜ、大将は」


 ネイラの言葉に頷くケプリ。ネイラはエリックの性格に見惚れ、ケプリは魂の美しさに従っている。事、こういう評価を誤ることはない。


「お前の神パワーとかで見つけられないのか?」

「不可能です。ケプリの能力は火と土。神の力のほとんどはピラミッドの維持に使っていますので」

「ま、そっか。エンプーサにさらわれた時もほぼ無力だったしな」

「嫉妬邪神系眷属いつかぶっころころ。個人的な怒りはさておき、ディアネイラ様は何か妙案でも?」


 無表情に自分をさらった相手に怒りの声をあげながら問うケプリ。あればこんな所で酒なんか飲んでない、という答えを想像していただけに、


「あるぜ。要は大将の動きを予想すればいいんだろ?」


 というネイラの言葉は意外だった。無言でジョッキを傾けながら次の言葉を待つ。


「オレの力が必要になった大将は艱難辛苦を乗り越えてオレに会いに来る! そしてこういうんだ。『やっぱり君がいないと駄目だよ!』……オレはその言葉を受け、そのまま――いや待て、キュウリョーサンカゲツブンの指輪が要るな。少し修正して……」

「期待したケプリが馬鹿でした」

「んだよ。だったらそっちは何かあんのか?」

「当然です。行き詰ったファラオはケプリを求めます。そんなファラオに対しケプリはこう問うのです。『力が欲しいか……?』……ファラオが頷くと同時にケプリのバァファラオと一体化し――ストップ。その前に服が光の粒子になって消え去るバンクシーンが必要ですね。よし、テイク2」

「よくわかんねーけど、チビッ子もないって事かよ」

「失礼な。確かにありませんが」


 ネイラとケプリは同時にエールを飲み干し、次のエールを注文する。ついでにつまみを頼み、昼間から酒に浸っていた。

 見張りの国防騎士達はそんな二人を見ながら、ひそひそと話し合う。


「なあ、あいつら見張るだけ無駄じゃないか?」

「ただの飲んだくれだよなぁ」

「つーか、なんだあの飲み方。ドワーフと変わんねぇぞ。エルフってもう少し綺麗な種族かと思ってたのに……」

「あの幼女もわけわかんねぇ。冒険者ってモラルねぇなあ」

「俺達も蟲使い追っかけた方がいいんじゃないか? コッチに戻ってくる気配もなさそうだし」


 念のためにネイラの動向を探れ、という命令を受けていた国防騎士達はあまりの酒宴を前に唖然とする。

 真昼間からよく盛り上がれるものだ。ましてや仲間の一人が犯罪者として追われているというのに。よくわからない馬鹿話で盛り上がりながら酒が飲める精神が信じられない。

 トイレに行ってはまた飲み、トイレに行ってはまた飲み。それを何時間も繰り返し、その宴も終わりとなった。


「うえっぷ……そろそろ限界……」

「ケプリもスリープモードです。ぐったり」


 テーブルに突っ伏すネイラとケプリ。既に日も暮れて夜の帳が降りる時間だ。国防騎士達も、これはもう問題ないと判断した。一応見張りを残すが、警戒度は大きく減った。事実、泥酔している二人に大きな動きはない。

 ――もし彼らがネイラの酒豪さを知っていれば、警戒は高まっただろう。本当に寝ているか確かめに近づき、肩をゆすって異常に気づけたかもしれない。

 今ここで寝ているのはケプリの<泥こねこねアースオペレイション>で作った泥人形。

 トイレでケプリが泥をこねて二人の人形を作り、服を着せて人形をテーブルに向かわせて寝させたのだ。簡素な動きなら、ケプリは近くにいるバァを憑依させて命令することが出来る。

 そしてケプリとネイラはトイレの窓からこっそり脱出し、夜の街を走っていた。

 

「大将なら、犯人を捕まえようと動くはずだ。夜の街に出てくる可能性は高いぜ」

「上手くファラオと合流できれば御の字です。運次第ですが、言うほど当てずっぽうにはならないはず」

「要は大将が探すだろうポイントをうろちょろすればないいワケだ。問題は――」

「はい。問題は――」


 ネイラとケプリは夜風に震えながら自分の姿を再確認した。泥人形に服を着せた以上、自分達は当然服がない状態になる。

 ぶっちゃけると、二人は下着しか身に纏っていない状態だ。夜の闇で隠れているとはいえ、これは恥ずかしい。


「せめてマントぐらい残しときゃよかったぜ。誰も見てないだろうけど、なんつーか、恥ずかしいぜ。これ……!」

「裸マント。新たなジャンルですね。ファラオが気に入れば良しとしましょう」

「懐広いな、チビッ子!? とにかく蜘蛛女と合流すれば服を作ってもらえる。それまで我慢だな!」


 ネイラとケプリは、そんなことを言い合いながら下着姿で夜の街を走っていた。

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