「ケプリです。3サイズは――」

「ケプリです。身長は149cm、3サイズは上から68・54・71です」

「いや。そういう事を聞きたいんじゃなくて……待って二人とも。まるで僕がセクハラしたかのような目で見るのやめて」


 淡々とした口調で自己紹介をするケプリ。なんだか聞いてはいけないような情報を聞かされたエリックは背後にいるクーとネイラの圧力を感じていた。爆発寸前の火山に似た何か。


「確かに君にことを聞きたいとは言ったけど、別のことを教えてもらえるかな!」

「はい。ケプリはファラオの質問ならなんでも答えます」

「そのファラオなんだけど……なんで僕なの? その、僕は失敗ばかりしている冒険者で、蟲使いっていう役立たずのジョブなんだけど」

「この世に全く失敗しない人などいませんし、たとえファラオが認められない世界であったのなら、それは世界が間違っています」

「いや、それは」

「大事なのはファラオとしての器です。神と世界の間に立ち、人を統治できる。その素質がファラオにはあるのです」


 言い募るエリックに、頑として譲らないケプリ。


「オレからもいいか?」


 らちが明かない、と手をあげて割って入るネイラ。ケプリが頷くのを待ってから、ネイラは立ち上がって胸を張る。


「オレは上から88・56・85のFだ!」

「ネイラいきなり何を言い出すの!?」

「あー、ずっこい! あ、あーしは87・54・90!」

「ふん、蜘蛛だけに下半身は大きいわけか」

「オヤジかこのエルフ! 無駄にデカいおっぱい持ちががって!」

「ふ、二人ともやめて! そのいろいろと想像しそうで……じゃなくて、話進まないから!」


 少し前まで押し当てられていた二人の身体の具体的な数字を聞き、色々困惑するエリック。バッドステータス魅了って魔法じゃなくてもかかるんだなー、とか場違いな事を心の中に思って気を逸らす。


「……その、神って言ったよね。という事はケプリは十二神の勇者とか天使とかそういうの?」

「いいえ。恥ずかしながら彼らとの戦いに敗れ、世界を奪われました。今は彼らによってこの世界の魔物の一角に堕し、単一個体ネームド魔物としてこの世界に在るように呪いを受けています」

「ああ、神の覇権争いに負けたクチか」

「かみのはけんあらそい?」


 クーと争っていた(胸の大きさとかバランスがどうとか言い争っていた)ネイラが、つまらなそうに口を挟む。クーもネイラの視線を追うようにケプリに視線を向けた。おうむ返しにネイラの言葉を返すクー。


「三千年ぐらい前か? 今の十二神が他の世界に殴りこんで神にケンカを売ったんだよ。『平行世界を統べるのはこのワシだぁ!』とかなんとか。世界をまたいでで神同士の殴り合いが始まって、勝利したのが十二神。で、負けた世界は吸収されてこの世界に取り込まれて、神の方はエーテルを削られて魔物となったり神の遺産レガシーになって、この世界に留まってるのさ」

「待って。世界とか神様が複数いるとか、どういうことなの? 太陽神が三柱も四柱もいたってこと? 太陽もたくさんあったって事?」

「はい。この世界とは別の隣の世界。鏡のように似ているけど、異なる世界。そこにはファラオとは異なる別の『エリック・ホワイト』のバァがいました。……或いはすでに死亡していたかもしれませんし、まだ生まれてなかったかもしれません」

「世界がたくさんあるとかわけわからんちん」

平行世界パラレルとかそういうもんらしいぜ。まあ、オレもその辺よくわからん!

 ともあれ、こいつらはケンカに負けた他所モンの神ってわけだ」

「間違ってはいませんが、説明が大雑把です」


 ネイラの説明に、首肯するケプリ。


「流石物知りねー、年増エルフ。三千歳だったとはあーし驚き」

「オレはまだぴちぴちの180歳だ! ぶっ殺すぞ!」

「殺さなくていいから。つまり……その世界の神様がケプリで、僕にその力を使ってほしい? って事でいいのかな」


 言い争う二人を押さえながらケプリに問うエリック。


「はい」

「その……元の世界を取り戻したいとか、今の世界を壊したいとか、神様に復讐したいとか、そういう事?」

「いいえ。失ったモノや世界に拘泥はしません。ケプリが求めているのは、あくまでファラオに仕え、世界をより良い方向に導いてほしいという一点だけです」

「それは助かるかな。物騒な事をやってって言われても困るだけだし。

 ……あ、いや。そうでなくても困るかな。世界を導くとかそういうのも僕には荷が重いというか」

「はい。だからこそケプリがいるのです。『朝日』を司るケプリが。

 何でもいいので、命令してください。この身が潰えるまでその命令を遂行しましょう」


 胸に手を当てて口を開くケプリ。

 これは説得はできそうにないなぁ、と諦めた。だがこちらに対する危険性は低いのだろうと自らを納得させるエリック。


「あー、うん。じゃあケプリは何が出来るのかな? 一番得意なことは何?」

「丸くすることです」

「まるく?」

「はい。コネコネして丸くします。一日中こねれます」


 手のひらで何かを丸くするような動作をするケプリ。何処か恍惚としている。背中から生えている節足が、わさわさと動いていた。


「……そう言えば、その足は……何?」

「はい、ケプリの部位です。ファラオが気に入らないのなら隠しておきますが」

「確かに人前では隠しておいた方が……」


 エリックはそこまで言ってから、首をかしげた。節足の形。丸くする。この二つから導き出せる虫がいたのだ。


「ケプリ、もしかして君は……スカラベに関係している?」

「はい。ケプリは太陽を回転して押し上げるスカラベです」


 スカラベ。タマオシコガネムシ属の属名。

 またの名を、フンコロガシと呼ばれる甲殻虫であった。

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