「普通が一番だし」
ラズグラウンの森。
そこは人類史が始まるより前からエルフが住んでいたと言われる森だ。エルフの里と言われ、その中でも様々なエルフの集落がある。ヒトとエルフの間に生まれハーフエルフも受け入れており、邪神に魂を売ったとされるダークエルフを除けばほぼすべての種類のエルフがこの里に居る。
その森の中にある一集落。そこにその建物はあった。
『第三大江戸高校』
かつてこの森に召喚された存在が創立した建物だ。かつての学び舎を再現したモノらしい。そしてその文化をエルフたちに伝え、今に至る。
木の看板に毛筆で書かれた看板が掲げられた門。そこを通ればコウシャと呼ばれる建物がある。そこに住むエルフたちはガクランやらブルマやらを着ており、他のエルフ種族と異なる文化を形成していた。
その門に、一人のエルフがやってくる。門番のエルフ――彼らが言うにはバンチョーなる守り手――がその存在に気付き、頭を下げる。
「ネイラ姐さんチョリーッス!」
「チョリーッス!」
「オレがいない間、何もなかったか?」
「
「おう! よくやった!」
ネイラはバンチョー達を誉め、そのままコウシャに入っていく。そこにあるセイトカイシツと呼ばれる里の議会を行う場所に足を踏み入れた。
「帰ってきたぜ!」
「オルゴポリスさん! 連絡もなしに歩き回らないでください!」
ネイラに大声をあげるのは、眼鏡をかけたエルフだ。セーラーフクと呼ばれる衣装を着て、腕には『委員長』と書かれた腕章をつけている。
「んだよ。まだ出ていって一年も経ってね―じゃねぇか」
「そう言って前は十五年ほど帰ってこなかったじゃないの! 私がどれだけ心配し……っ……し、心配なんてしてませんけど、長の立場をわきまえてください!」
「イーンチョーは固いなぁ。まあ覚えてたらな」
そんなやり取りの後、ネイラは先の事件で戦ったエンプーサのことを告げる。
「冥界の色欲三姉妹、エンプーサ……!」
「知っているのかイーンチョー!?」
「聞いたことがあるわ。ヘカテ、モルモンと並ぶ冥界に住む三姉妹。地獄の月を司り、こちらに出没しては人を闇に堕とすと言われているわ」
「何とか撃退したが倒すには至らなかったぜ」
「
悪魔の強さを知っているエルフたちは、悔しそうに言葉を放つ。悪魔に挑もうなど、無謀にもほどがある。月に手を伸ばすようなものだ。
「ああ。これから他の
「任せておいて。
「おう、頼りにしてるぜ」
「ベ、別に貴方の為にやるんじゃないんだからね! か、勘違いしないでよっ!」
へいへい、と返事を返してネイラは部屋を出る。そのまま木造の廊下を歩き、一番奥にある鏡の前に立った。そこに手を伸ばし、鏡に触れる。
聖人のエーテルに反応して転送魔術が発動し、ネイラの姿はそこから消えた。
◆ ◇ ◆
「毒の定義は一言で言えば『ヒトに悪影響を及ぼす物質すべて』。例えば人には効かずとも他の生き物には悪影響を及ぼすものは毒とは呼ばないのでござる。
また侵入経路も様々で傷口からはいる毒やガスとなって呼吸器から入る毒。そして今回のクモのような触れて溶かすのもまた毒となるのでござる。だがこれだけではござらぬ。聞くところによると視覚情報で人の精神を汚染する精神的な毒も存在しており、もはや物質だけにとどまらないのが――」
下水を歩く中、マツカゼが話しているのはそんな話だった。元々饒舌なイメージはあるが、自分の関連分野になるとさらに饒舌となる。
「はあ……」
「そして人の文化も毒と共に成長してきた。毒を矢に塗ることで魔獣幻獣の類を伏し、人類の生息件を大きく広げていったのでござる。そして人類同士でも毒による暗殺が行われ――
おおっと、失礼。拙者ばかり話してた。お二人もお好きな
「あ、そういうのはないです」
「普通が一番だし」
「なんと……。我が道は未だ理解遠き修羅道か」
エリックとクーの答えに、明らかに落ち込むマツカゼ。
「しかし聞けばホワイト殿は蟲使い。体内に蟲を入れる以上は何かしらの変化は生じるでござろう」
「え? なにそれ?」
「むむ。我が故郷の蟲使いは体内に様々な蟲を取り入れ、それにより体内循環をコントロールしたり、蟲の力を発揮したりしていたでござる。お腹から炎を吐いたり、背中の翼で超音波を発したり」
「東方怖い! 僕そんなことできないよ」
「そうでござるか……。そういった人外めいた処もあって迫害されていたでござるが」
「……あー、うん。やっぱりそうだよねー」
地味にトラウマを刺激されるエリック。蟲使いの迫害は遠く離れた土地でも行われていたのかと胸を痛めた。
ああもう、とため息をついてクーが話を切り替えるように手を振った。
「んな知らない場所のことはいいのよ、まっつー。とっとと蜘蛛倒して帰るわよ」
「まっつーとは拙者のことでござるか? しかし蜘蛛の場所が分からぬ以上は――」
「あ。それなら僕が分かります。下水道は虫だらけなんで」
下水道に住む虫に<
「なんと。捜索の手間が省けて助かったでござる。では向かうとしよう」
「そーね。悪いけど、サクッと倒させてもらうからね。下水になんかあまり居たくない――し?」
何かを言いかけたクーは、膝から崩れる様にへたり込む。息が荒く、明らかに異常な状態だった。
「クー?」
「あれ? なんか、体……変……」
エリックの手を掴んで、なんとか立ち上がるクー。寄りかかるようにして、ようやく歩くことが出来る状態だ。
その様子は、明らかに不調だった。
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