「で、蜘蛛を倒せば終わりでおけ?」
「少しやりすぎじゃないかな」
エリックとクーが出ていった冒険者ギルド。そのギルド長の部屋。
報告書の摘まれた机のを挟んで相対するギルド長とその事務員。だがその関係は始祖期の上下関係とは異なっていた。
「彼はEランク冒険者で、ランクを超える依頼を渡すのは命の危険が――」
「はい、理解しています。ですがスキル相性と同行しているアラクネを考慮すれば、危険性は低いかと」
「他の人への示しというのがあるんだけどね」
「人間関係を調整するのが長の努めです。私は私の範囲内で最大限ギルドに貢献するだけです」
「全く、ドライだね。ヴィネ」
ギルド事務員――ヴィネと呼ばれた者はギルド長の言葉にそうですね、と短く頷いた。
ギルド長は諦めたようにカップに手を付け、冷めているコーヒーを口にする。その後に、トーンを少し落としてヴィネに尋ねた。
「……子供が襲われる件は間違いないんだね?」
「はい。二日後に子供二人が襲われる『未来』が見えました」
「<
<
人間に会得できるものではなく、神もしくは高い地位の悪魔のみが持つことが出来るスキルだ。
悪魔の伯爵、ヴィネ。そしてそれを召喚し、使役する召喚術者。
ここにいるのは、そういう存在だ。
「しかし、ああいう煽るようなことはもう二度としないでほしい。君の信頼に関わるから」
「私の信頼など、未来に失われる命に比べれば無きに等しいです」
「損得勘定ではなく、関係性の問題なんだけどね」
「生憎と、人間ではありませんので。――ですが」
冷たく言い放った後、一泊置いてヴィネは言葉を続ける。
「主は私の信頼が失われると悲しいですか?」
「悲しいね。君の能力云々じゃなく、信頼されないという事が悲しい」
「――そうですか。では考慮します」
ギルド長の言葉にわずかに口元をほころばせ、ヴィネはそう頷いた。
「宜しく頼むよ。エンプーサの件もある。君がいないと大変だからね」
「あの悪魔は今のところ動きを見せません。とはいえ、<
「『疑似的な平行世界を作り盾にして、、調査系スキルを誤魔化す』……か。千里眼クラスをも誤魔化せるのだから、大したものだ」
「高い能力を有し、そしてその能力を過信しない。それが
「嫉妬神に色欲神、その眷属達か。人間同士仲違いしている余裕はないのにね」
ため息をつくギルド長。迂闊に動けない地位がもどかしい。だがこの地位を捨てれば、冒険者たちを守ることが出なくなる。
「まあ、今は一歩ずつだ。焦らず行こう」
◆ ◇ ◆
「ねー、酔いどれエルフは帰ってきた?」
「ネイラの事なら、まだみたいだよ」
あの後、荷物を取りに自分達の部屋に戻ってきたエリックとクー。そろそろ帰ってくるはずの同居人はまだ帰ってきてなかった。
「
「悪魔が出た、っていうのは聖人にとってかなりの事らしいだからね」
「ふーん。せーじんって大変ね」
帰ってきてたら盾にしてやったのに、と言うクーの言葉を笑って受け流すエリック。ともあれ、下水道には二人で向かわなくてはいけないようだ。防水用の装備を持ち、現場に向かうエリック達。
「で、蜘蛛を倒せば終わりでおけ?」
「うん。アシッドスパイダー。大きさ1mほどの鉄を溶かす酸を吐く蜘蛛だね。溶かした鉄で巣を強化するんだ。元々は洞窟に住んでるんだけど、その性質から鉄の多い都市部などに巣を張って、獲物を待つとか。
……まあ、まだ誰も襲われてないみたいだけど」
「ま、あの女がそういうのなら、襲われるんでしょう」
「そういえば、さっき何か会話してたみたいだけど……もしかして事務員さんとお知り合い? 悪魔とか言いすぎだと思うけど」
「事実だしー。見るしかできないエラソーな女の事なんてどーでもいいじゃん」
そんな会話をしながら現場に向かっていくエリックとクー。
アシッドスパイダーが出ると思われる下水区域は解っており、そこへの最短ルートは教えてもらっている。行って退治するだけの、本当に討伐するだけの依頼である。
下水の入り口に向かう階段を下りるエリックとクー。既に腐臭が漂ってきている。
「うわ。凄い匂い……。ねえ、エリっち。こーいうのって魔法使いの炎でどばばーって焼くとかできないの?」
「流石に街の下水で大火力はマズいから。あとアシッドスパイダー退治の証拠に毒袋を回収して来いって言われてるんで駄目」
「人間てめんどくさなー。……およ? 誰かいる?」
クーの目には入り口付近で怪しげな儀式をしている一人の男性がいた。怪しげな布で体を包み、指先で何かを描いている。魔術師とも思えるが、体つきはむしろスピード型近接系。
「むむ。その出で立ち、さてはここに住むアシッドスパイダーを退治するためにやってきた冒険者でござるな。
拙者、名をマツカゼ。ジョブは
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