戦えない蟲使いだけど冒険者やってます ~ゴブリンも倒せない最弱で嫌われジョブだけど、黒ギャルなアラクネがパーティイン。翻弄されながら頑張ってます!
「あーしにかかればゴブリンなんて何匹来たって全滅不可避だから」
「あーしにかかればゴブリンなんて何匹来たって全滅不可避だから」
勘の良さ、という言葉がある。
物事を直感的に見出すことが出来ることで、理屈や理論を無視して一気に正解を導き出すことだ。
だが、勘とは正確に言えば五感では感じ取れないが、理解している感覚なのだ。その人間が経験しているのだけど思い出せない事象。あるいは未経験だけど似た状況がかつてあった事柄。そう言った『気付いていないけど、気付くきっかけがある』事なのだ。
「…………え?」
エリックがそれに気付いたのは、何度もゴブリンの襲撃を受けていたからだ。ゴブリンの足音、におい、行動パターン。そう言った微細な感覚が積み重なった結果、気付くことが出来た。
「どしたの、エリっち?」
「ゴブリンに囲まれてる……かも? 逃げよう」
エリックは言ってクーの手を引いて道を引き返す。ここから先は進んではいけない。
だが、クーは引っ張る力に抵抗するように足を止める。
「だーいじょうぶよ。あーしにかかればゴブリンなんて何匹来たって全滅不可避だから」
「え? でも……」
「なによー。あーしの強さ、信じられないの? マジつらみなんですけど!」
「ええと……」
ぷー、と頬を膨らませるクー。なんでそこで怒るのかは理解できないけど、エリックの冷静な部分はそれでも逃げるべきだと告げていた。
だが同時に、クーの強さを見ていることもあり『大丈夫かも』と言う思いもあった。自分のように戦う手段のない蟲使いではなく、アラクネと言う魔物ならゴブリンが何匹襲って来たとしても問題なく蹴散らすことが出来るのではないか?
「わーった、だったらエリっちはそこで見ててよ! 秒で片づけてあげるんだから!」
「え、ええ!? いや、ちょっと待って。その、クーが強いのは見たけど――」
「隠れてないで出てきなさいよ! バレバレなんだから!」
言って指から糸を出し、周囲に飛ばすクー。白く細い糸は探査のために飛ばした糸だ。それ自体に攻撃力はないが、触れればその感覚をクーに伝え、正確な場所と数を教えてくれる。
「ゴブリン如き10や20匹揃えたところで……30……40……50匹!? ちょ、どんだけ!」
『ふん、向こう見ずに突っ込んできてくれれば包囲殲滅できたというゴブに』
クーとエリックの耳に聞こえれてくる声。
(
エリックは唾を飲み込み、思考する。相手はゴブリンだけではない。最低限、知性のある魔法使いジョブが存在する。
『だが、それまでゴブ。お前達は完全に包囲されたゴブ! どう料理してやろうか楽しみゴブ! ゴブゴブゴブ!』
(おそらく
「頭の中でゴブゴブしゃべるなー! 居る場所と数さえ分かれば、50匹ぐらいどーってことないわよ!」
耳を塞いでクーが叫ぶ。聞こえてくる声に苛立って、一気に走り出す。
「待って、クー……ってうわあああああ!?」
「エリっちはそこで見てて! あーしのいいトコロ、見せてあげるわ!」
クーは止めようとするエリックの足を糸で縛り、そのまま木の上に放り上げた。ゴブリンの体長を考えれば安全な場所だ。
「ギーギー!」
「馬鹿ね。もうアンタらは、あーしの
言葉と同時にクーは左手を上にあげる。掲げた手から白い糸が伸び、探査用に張った糸に絡みついて伸びていく。粘着性のある糸は一秒で巣を形成し、探査されたゴブリンに絡みついて動きを封じた。
『
「ギー!? ギギー!」
「……すごい」
木の上からクーの戦いを見ていたエリックは、ただそう呟くしかできなかった。
驚愕すべきはその精密性だ。糸の範囲内にエリックもいたのに、それを無視してゴブリンだけに絡みついて動きを封じる。圧倒的な数で攻めても、その状況を一気にひっくり返す。
だが――
『ゴブゴブゴブ! 流石
「なに、アンタは隠れて笑うだけ? 偉そうなこと言ってた割に、ウケるわー」
『そう思われるのは心外でゴブ。では偉そうなところを見せてやるゴブ!』
ざわり。
山の中を強く乾いた風が通り抜けた。それは魔を含んだ颶風。神に排斥された邪神の吐息。
瘴気含んだ風は山の中に広がり――
「ギー!?」
「ギギギ!?」
クーが捕らえたゴブリン達の命を奪っていく。ゴブリン達は喉を掻きむしり、口から泡を吹いて倒れていく。
「何、どういうことなの!?」
『彼らは生贄になってもらうゴブ。我らが神の眷属を召喚するために』
「あ、あんた……! ヤバ、50匹皆死んだ……?」
『いでよ我が
言葉と共に、大地が黒く染まる。同時にそこから伸びる複数の影。影は細長く伸び、うねるように自らを誇示した。
『さあ、そのアラクネを捕らえるゴブ! そしてこの世に受肉するための母体とするゴブ!』
「母体とか……エッロー」
毒つくクーだが、状況的に芳しくない事はその肌で感じていた。
50の命を生贄にして召喚された神の眷属。それが自分の肉体を狙っているのだ。そして捕まれば、二度と逃げる事はできないだろう。その生涯を『母体』となるためだけに使われる。下手をすれば死ぬことすらできないかもしれない。
逃げようにも周囲は既に影の触手で囲まれている。戦って勝てるかと言われれば難しい。
少しずつ迫る触手と同時に、クーの心は絶望に染まっていた。
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