干支ポート 2019
NEO
今年もお世話になりました。そして、行け次!!
去年はどこかの土手で干支の引き継ぎを土手でやりましたが、深夜の騒音でクレームが相次いだようで、今年から場所が某所にある航空自衛隊基地に変わりました。
「まあ、毎年きてる僕も、女々しくてどうかと思うけどね」
黒スーツをバリッと着込んだ猫が駐機場に体育座りをして、文字通り煙たがれる紙巻きタバコに火をつけました。
その隣に同じように黒スーツを着込み、夜なのにサングラスを掛け、いかにも頑丈そうな黒塗りアタッシュケースを持ったイノシシがいました。
「まあ、そういうな。お前の姿を見ないと、年の終わりの気がしなくてな」
イノシシは猫の肩を叩き、たばこカプセル対応のドリップチップを装着した、VAPEの安物MODを取り出し、一吸いして白煙を口から吹きました。
「お前が紙巻きをやめるとは思わなかったよ。しかも、素直にプルー○テックじゃないしね。そっちの方が美味しいのは認めるけどさ」
猫は紫煙を吐き出しながら、イノシシに笑みを送りました。
「俺が素直にやった事あったか。あんな細っこいの、すぐなくすしな。そういえば、俺たちとあまり関係ないから気にしてなかったけどよ、この交代のすぐあとで『平成』とかいう時代が終わるらしいぜ。聞いてたか?」
「それが猫になんの関係があるんだい。そんな事より、なんか干支から漏れたのを嫉んでいるかのように、毎年こうやってる僕はどうなんだろうね。ネズミの時以外は毎年こうやってるよね。馬鹿じゃないかと思うよ」
猫は一本目の吸い殻を携帯灰皿に収め、二本目に火をつけました。
「そう捻くれるなよ。干支動物は某合衆国大統領より大変らしいからな」
イノシシは笑いました。
「大変な事は嫌いじゃないし、別になにか捻くれてるわけじゃないよ。率直な気持ちとして羨ましいだけ。猫年とかやっぱ坐りが悪いか。今何時だい?」
「ん、二十三時四十五分だな。そろそろ、最新鋭機になったらしい趣味の悪いアイツが飛んでくるな」
イノシシは、黒ジャケットの胸ポケットに入っていた何かを取りだしました。
金色の台紙に赤文字で書かれた文字は「旅券」。
すなわち、センスの欠片もないパスポートでしたが、猫にはなんなのか全く分かりませんでした。
「それさ、去年意地悪されてちらと見せられてモヤモヤしたけど、君はさらに堂々と出したね」
「うん、ただのイジメだよ。気にするな」
その金表紙の趣味の悪い者を黒スーツの胸ポケットに収め、腕時計を見ました。
「もう、くるぞ。今年は、いつものガルフストリームより大きいらしい」
イノシシはアタッシュケースを持って立ち上がりました。
遠雷のような音が聞こえ、深夜の滑走路に向かって、上空にいても去年よりかなり大きな飛行機が下りてくるのが、着陸灯の明かりで分かりました。
「確かに大きいね。どうせ、趣味が悪い塗装なんでしょ?」
猫が三本目に火をつけ、立ち上がりました。
「はぁ、今年もこれをみるんだね。楽しみだからいいけど」
猫がいったとき、飛行機が着陸しました。
猫とすでにやる気モードのイノシシの前に、やはりそうだったという感じの趣味の悪い塗装が施された大きな飛行機が駐まりました。
機体全てが金色に塗られて、垂直尾翼には毛筆体でデカデカと「干支」の文字がありました。
「うわ、飛行機が大きくなったから、なんだか最悪な感じだね」
猫は紫煙を吐き出しました。
「なるほど、ここでC-2輸送機を採用するとはな。こんな大きな機体は、全く要らないはずだが……」
イノシシがため息を吐いた時、飛行機からイヌがスーツケースを持って降りてきました。
イノシシもイヌに近づいていき、お互いに小さく敬礼を交わしたあと、イノシシは最悪な飛行機に乗り込んで行きました。
「よう、今年もきてたな。一年ぶりだな」
「うん、これやらないと落ち着かなくて」
イヌが笑みを浮かべて猫に声を掛けると、猫は五本目のタバコに火をつけました。
「これからあの機はすぐに滑走路に移動する。日付が変わると同時に離陸して、やっと俺も十二年休めるってわけだ。まあ、見送ってやろう」
「なんか、大変だねぇ」
趣味の悪い飛行機は、すぐさま動き始めました。
滑走路に移動すると、そのまま停止して時を待っているようでした。
イヌがチラッと腕時計をみました。
「いくぞ、離陸だ」
飛行機のエンジン音が急激に大きくなり、金ぴかの機体はすぐに離陸して夜空に消えていきました。
「これで、あとはアイツの年だ。なにもなきゃいいがね。さて、どこかの店の新年会に紛れ込もうか」
「あれはバカの馬鹿騒ぎだよ。静かに家で冷やしお汁粉食べたいな」
イヌの言葉に猫は笑みを浮かべたのでした。
(新年恒例にしようと思ってるネタ・完)
干支ポート 2019 NEO @NEO
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