第2話

「さて・・・この辺りまでくれば大丈夫でしょうか?」


しばらく歩いてから俺はそうクリスに言った。

クリスはその言葉にびくんと反応していたが・・・もしかしなくても意識してもらっているのかな?


だとしたら悪くない・・・どころか、凄く可愛いけど


「あ、あの・・・マルス様」


そんな俺の内心を知らずにクリスはしばらく何かをいいかけてから、ポツリと呟いた。


「どうして・・・私を助けてくださったのですか?」


ふむ・・・まあ、確かに普通に考えたら疑問ではあるよね。今までそこまで親しくなかった上に、明らかにヒロインに熱を上げていたはずの人間が、自分を助けた上に結婚を申し込んでくるなんて予想外もいいところだろう。


実際、俺が同じ立場にいれば同じ疑問を抱くだろうし、むしろ何か裏がありそうだと考えるところだが・・・クリスの瞳からはただただ不思議そうな気配が伝わってくるので、俺は素直に答えた。


「好きだからです」

「・・・ふぇ?」


きょとんという言葉がふさわしいほどに瞳を丸くするクリスだったが、次第に先程の俺からの公衆の面前での公開プロポーズを思い出したのか顔を赤くしていく・・・か、可愛いすぎる!なんだこの生き物!


「あ、あの・・・でも、ま、マルス様はあの方にご好意を抱いていたのでは・・・?」


しばらく視線を泳がせてからそんなことを聞いてくるクリス。

まあ、その通りなんだけど、素直に『前世の記憶を得て惚れた』なんて言えば電波扱いされることになるだろうから素直に返事はできないな。


まあ、この世界では電波なんて言葉はないだろうから頭のおかしい狂人の戯れ言に思われそうだけど・・・どちらにしろマイナスになることになるので、俺は少し考えてから答えた。


「ベスター殿下の婚約者である貴女のことを私は昔からお慕い申しあげておりました。とはいえ、この想いは叶わぬ想いと、心の角に追いやり今日まで来ましたが・・・殿下が貴女を手放すと聞いて、いてもたってもいられずについ余計な手出しをしました。お許しを」

「で、では・・・あの方のことは・・・?」

「異性としての興味は微塵もありません」


最後の言葉だけは思わず力が入ってしまったが・・・仕方ない。うん、まあ、確かにヒロイン様は可愛いには可愛いけど、俺的にはどうにも腹黒いタイプのヒロインは無理っすわ。


そんな俺の言葉に少しほっとしたような表情を浮かべるクリス。


あれ?もしかしなくてもこれは・・・いい感じに捉えていいのかな?

少なからず異性として意識しているように感じるので、ここは攻めたいところだけど・・・その前に言わねばならないことを言うために俺はクリスの手を取って頭を下げて言った。


「私は・・・クリス様が苦しむとわかっていながら、貴女を手に入れるチャンスを得るために貴女を少なからず傷つけてしまいました。殿下が貴女に婚約破棄を突き付けることを知っていながら、それを己の想いのために、止めることをせずに貴女に辛い思いをさせたことをどうかお許しください」

「・・・あ、あの・・・頭を上げてください」


その言葉に頭をあげると、クリスは少し頬を赤く染めつつも、柔らかい笑顔で言った。


「私は・・・マルス様に感謝を抱いております。殿下から婚約破棄を告げられて、誰も味方がいない中で、私の手を取って下さったこと・・・とても、嬉しかったです」


そんなことを言うとは・・・見方によれば、俺は私欲のために策を労してクリスを手にいれようとした腹黒にしか感じないだろうに、目の前にいる天使のような清らかな心の想い人は、それを嬉しいと言ってくれた。


ヤバい・・・なんというか、クリスへの好感度が冗談ではなく上がっていく。


こちらが口説かないといけないのに、逆に口説かれるとは・・・天然というのは一番恐ろしいものだな。


そんなことを思いつつも、俺は表情には出さずに優しく微笑んでから言った。


「ありがとうございます。ところで、先程のお返事を聞きたいのですが・・・」

「先程の返事・・・?」

「はい。私からのプロポーズについてです」


そう言うと、クリスはぼふん!という音をたててさらに顔を赤くした。それを可愛ええなぁ・・・と内心で悶えつつも表情はあくまで優しくして続けた。


「気のせいでなければ、クリス様も私のことを少しは異性として意識していただいていると思うのですが・・・いかがですか?」

「あ、あの・・・そ、それは、あの・・・えっと・・・あの・・・」


しばらくあわあわしていたクリスだったが・・・やがて決意を決めたようにうるうるした瞳で俺を見ながらこくりと小さく頷いて言った。


「・・・わ、私も・・・マルス様のことを・・・お、お慕い申しあげております・・・」

「・・・ありがとうございます」


その言葉に俺は理性を激しく揺すぶられたがーーーなんとか紳士として答えることができた。


やべぇ・・・クリスが可愛いすぎるんだけど!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殿下、悪役令嬢いらないなら俺が奪って溺愛しますね yui/サウスのサウス @yui84

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ