第10話 急げ ジャンヌ

 その時、ジャンヌは、ようやく佐原駅に着いた。

 彼女が、ナビを見ると赤い点が運河上を利根川方向に移動していた。

 ジャンヌは、

    「夕子さんは、ボートでさらわれたのか?

     このまま行くと、行き先は利根川の中州?」

    「そうは、させないわ」

と、判断した。

    「でも、どうしよう?」

 次の瞬間、ジャンヌにアイデアが浮かんだ。

 彼女は、再びバイクを吹かし、猛スピードで小野川新橋に先回りした。

 そうして橋まで来ると、バイクから降りヘルメットをかぶったまま、ボートが来るのをじっと待った。

 すると、ボートのエンジンの音が段々と大きくなり、ボートは、橋に向かって近づいて来たのだ。

 ジャンヌは、ボートが橋にかかろうとした一瞬、橋の欄干らんかんからボートに飛び乗ったのであった。

 彼女は、ボートの先端に右ひざをついて上手に着手した。

 殺人魔は、ジャンヌが急に表れたため

    「アッ! 何だ、お前は?」

と、驚いた。

 しかし、それもつかの間、ボートの舵を取り舟体を大きく左右に揺さぶったのだ。

 ジャンヌは、片手でボートの先端をつかまりながら、

    「ジャンヌ惨状! おい、殺人魔 観念しな!

     お前は、もう逃げられないよ、死刑台に送ってやるからね!」

と、男を罵倒ばとうした。

 それを聞いた殺人魔は、

    「何!ジャンだと? しゃらくせい! お前も一緒に地獄に落として

     やるからな!」   

とわめき、さらに、船体を左右に大きく揺らしたのだった。

 そのためジャンヌは、一瞬バランスを崩し、思わず左足をボートから水中に落としてしまった。 

 彼女は、両手で必死に舟頭のコックにしがみついた。

 男は、しめたとばかりニタリと笑い、ポケットからジャックナイフを取り出し

鋭い刃をピューンと伸ばした。

  そして、先端がピカッと光ったナイフで、ジャンヌに向かって来た。

 絶体絶命の危機が彼女に迫った。

    「ウシシ・・ あ! お前は、女じゃねえか!」

    「殺す前に可愛がってやるか」

と、男は、嬉しそうにわめいた。

 しかし、ジャンヌは、次の瞬間、両手で一気に逆立ちし、水中にあった左足で男の右足を掛け転倒させた。次に右足で、ナイフを持っていた右手に蹴りを入れ、ナイフを落とさせた。

 だが、男は、その程度では、くじけなかった。

 さらに倒れながらも怪力の両腕で襲いかかって来た。

 ジャンヌは、素早くジャンプして男に馬乗りになり、思いっきりヘルメットで頭突きを食らわせ、その直後、鋭い空手チョップを首筋に数発浴びせた。

 すると、男は、怪力ではあったが、さすがにぐったりした。

 殺人魔は、遂にノックダウンしたのだった。

 彼女は、直ぐに左右に揺れているボートを立て直した。

 その後、彼女は、持っていた黒マジックインキで、男の額に大きく「J」の文字を書いたのだ。これは、ジャンヌ惨状の刻印であった。

 ジャンヌ

    「夕子さん、夕子さん、大丈夫?」

 すると、夕子がようやく気が付き

    「ここは、何処?」

    「あなたは、誰?」

と、質問した。

 ジャンヌ

    「ここは、ボートの中よ。 私は、ジャンヌ」

    「あなたは、この男に殺されそうになったのよ」

    「でも、もう、安心。この男は、警察に引き渡すからね」

 夕子

    「ジャンヌ様、本当にありがとうございました」

    「私、もう、だめかと思いました」

 ジャンヌは、忠敬ただたか橋のたもとでボートを泊めた。

      

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