第9話 夕子は逃げる

 一方、夕子は、無我夢中で逃げていた。

 いつの間にか、彼女は、履いていたサンダルが脱げて裸足になっていた。

 彼女は、パニックになり駅から南方向に逃げていたのだった。

 やがて、夕子は、小野川(運河)に突き当り、忠敬ただたか橋を渡った。

 運河沿いの商店街は、すでにどこの店も閉まっており、人通りはほとんどなかった。

 彼女の体力は、もう、限界だった。

   「はあ、はあ・・もう、ダメ」

 殺人魔は、陸上選手でもあったのか、余裕で彼女の後を追って来た。

 まもなく、男が、夕子に近づき

   「お嬢さん、大丈夫ですか?」

と、言ってまた、首筋から背中を指で触れたのだった。 

夕子は、

   「キャー!」

と、大声を上げた。

 次の瞬間、男は、声を出されては大変とばかり、夕子の前に素早く回り、

右の手拳で思いっきり腹部を殴った。

 すると、夕子は、気絶してしまった。

 男は、彼女の背中と両足を素早く持ちあげ、運河沿いにある船着き場まで運び、かねて用意して置いたボートに彼女を乗せたのだった。


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