第6話 ジャンヌ出動

 メールを読んだ千夏は、奥の部屋にいた父を呼んだ。

   「父ちゃん、コロッケを揚げるの代わって!」

 すると、父は、

   「何言ってんだよ、千夏、

    今夜は、商店街の寄り合いがあるって前から言っていただろう」

   「もう、出かける時間なんだよ」

と、しかめっつら怪訝けげんそうに言った。

 千夏

   「あのね、私の友達が大変なのよ」

   「どうしても行かなくちゃならないのよ」

 父

   「そう言ったって、俺だって行かなかったら、商店街から村八分に

    されちまうよ」

 千夏

     「しょうがないな~ 親父は」

 父

    「そりゃ、こっちのセリフだよ」

 次の瞬間、千夏にアイデアが浮かんだ。

   「そうだ、俊夫がいた。 俊夫! 俊夫!」

 千夏は、大声で弟の俊夫を呼んだ。

 俊夫

   「何だよ、ねえちゃん」

 俊夫が、うるさそうな顔をして2階から降りて来た。

 千夏

   「あのね、私、ちょっと出かけるから、私の代わりにコロッケ揚げてね」

 俊夫

   「冗談じゃねえよ」

   「俺、野球の試合で疲れているし、第一、明日学校で試験があるから勉強

    しなくちゃならねえんだよ」

 千夏

   「何言ってんのよ」

   「どうせ、勉強なんてしないくせに」

 俊夫は、急に怒った顔になり、

   「俺、コロッケなんて揚げねえよ」

と、言った。

 千夏は、俊夫が言うより早く菜箸さいばしを俊夫に無理やり押し付け、店を出て行ってしまった。  

 その姿を見て、俊夫は、ぽかんと口を開け唖然あぜんとしていた。

 千夏は、店を出ると荒川の土手の近くにある店の倉庫に向け全速で駆けた。

 彼女の走りは早い。100mを11秒代で駆けることができた。

 倉庫には、3分で着いた。 

 倉庫は、外部から見えない所に出入り口があり、室内には、大きなカバーを外すと、ピカピカの1000ccの大型バイク(ロメオCGZ)1台が、堂々と置かれていた。

 ボディの色は、全体が黒で、燃料タンクとカウリングには、鮮やかなピンク色の

Jの文字がマークされていた。

 千夏は、バイク用の黒革の繋ぎ服に着替え、黒革のロングブーツを履いた。

 繋ぎの左胸には、大きなピンク色のJの刺繍ししゅうほどこされていた。 Jは,ジャンヌの頭文字である。

 次の瞬間、千夏は、ジャンヌに変身したのだった。

 何故、彼女が、人々から「ジャンヌ洋子」と呼ばれるようになったのか。

 その理由は、ジャンヌが誰かは、誰も知らなかったが、彼女がこれまでに多くの難事件を解決して人々の命を救ったことで、フランス国のために命を捧げた英雄「ジャンヌ・ダルク」にあやかって「ジャンヌ」と呼ばれる様になった。

「洋子」の語源については、男勝りの女暴走族がいたからとも言われている。

 彼女は、バイクにまたがると同時にエンジンを吹かし、黒色のフルフェイスのヘルメット(額にピンク色のJ文字入り)を被った。

   ブル~ン、ブル~ン

と、2,3度エンジンを吹かすと、ハンドル脇のボタンを押し、倉庫の自動シャッターを開け佐原へ向け出発した。

 倉庫から裏路地を通り荒川の土手沿いの道に出て、その後、国道4号線から荒川をまたいだ千住新橋を渡った。

 そして、千住新橋インターから首都高速に乗り、やがて東関東自動車道に入った。

 ジャンヌのバイクは、レース仕様のため驚く程早かった。

 途中、オービスのある地点は、時速100kmに抑え、その他は、時速200kmでやぶさのごとく突っ走った。

 

 

 

 

 


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