第16話 普通の大人
「今日は、8月4日、月曜日です。みなさん、おはようございます。 コンドウマリコです。この週末もアスファルトがぐにゃぐにゃに溶けそうなくらいに暑かったですが、皆さんはいかがお過ごしでしたか?この時間は、皆さんからいただいたメッセージを紹介したいと思います。まずは…っと。新潟市のひまわりのおにいさんから。お暑うございます。先日の金曜日、出張の帰りにずっと前から念願だった山形市にあるラーメン屋さんに行ってきました。土日祝日はお休みで平日しか営業していないラーメン屋さんだったので、元々、大の出張嫌いの私でありましたが、今回ばかりは神様に感謝申し上げるために地元の神社にお参りに行ったくらいでした。ハハハハハ、ひまわりのおにいさん、地元の神社までお参りしてご挨拶だなんて、よほど嬉しかったんですね~。山形も新潟と同じく猛烈な暑さでしたが、遠くに見える陽炎をラーメンの湯気だと思って頑張って仕事をこなし、お昼休みに、そのラーメン屋さんに行ってみると、覚悟していた行列も無く、店の入り口の戸も開けっ放しで、まったくもって拍子抜けしました。それもそのはず、その日のラーメン屋さんはエアコンが壊れていて、店内は灼熱と化していたのです。ハハハハハ、この暑さでラーメン屋さんのエアコンが壊れてたら、いくら有名店でもそりゃお客さん引きますよね~ お店のマスターは『ほんど、すんませんですね~こんな暑い日にエアコンごわれでいで。さすけねえ(大丈夫)ですか?』と申し訳なさそうに言いましたが、ここは、数年来の念願だったラーメンだったので初志貫徹「もちろん、さすけねえです!私、新潟から来たんです!ごま油味噌ラーメンの大盛をください!」と注文して、滴り落ちる汗も調味料にして完食しました!エアコン無しの灼熱店内であってもこのラーメンの味は評判通りの絶品でした!ハハハ、マスターも新潟からわざわざ来て、エアコン無しの店内で食べてくれるのが申し訳ないような、ありがたいような複雑なお気持ちだったでしょうね~ 私なら、『さすけなくないです』と言って、絶対、引き返しましたでしょうね。ウフフフフ。でも、ひまわりのおにいさん、念願がかなってよかったですね!今度は、秋のいい季節に出張が組まれるといいですね!さて、次のメッセージは…長岡市のよしこさんから。おはようございます。この土曜日、高校の時の同級会に行ってきました。同級会と言っても、ただの同級会ではなくて、長岡花火
俺は、お寺の石垣造りに向かう車の中で、いつものラジオを聞いていた。
「あの人たちがしゃべっていたことが、同窓生の総意なんかじゃないと思うから、わたしは気にしていないし、清水君も気にしちゃだめよ」とタカマリはカラオケ屋からの帰り道で言っていた。
「わかってるさ」と俺は言ったけれど、酔いも一気に醒めていたし、心中も穏やかじゃなかった。
「清水君のことをああやっていろんな部屋に連れ回して歌わせたり、清水君の歌を聞いて喜んでくれたりした人もたくさんいたでしょう。それが、普通の42歳の大人よ。子どもの頃のことに未だにこだわっていたり、逆恨みしたりなんて馬鹿げているわ」
「そう言うタカマリのところには、女の子たちが全然寄って来なかったじゃないか」と、俺は言い掛けたがやめた。
「でも、清水君、わたしがこんなこと言っても説得力無いわよね。いつだって、被害者よりも加害者の方がいろいろと忘れて、なかったことにしてしまうものなんだわ。清水君にとっては、わたしが一番の加害者だものね」
俺は、何も答えることができず黙って街灯の少ない夜道を歩いた。
「清水君、あの門灯が点いているのがわたしの実家。送ってくれてどうもありがとう」とタカマリは立ち止まってそう言った。
「それから、もうひとつ。さっきのカラオケ屋で、あの連中にあんなやって怒ってくれてありがとうね。なんか、嬉しかったわ」とタカマリは俺の方を真っすぐ見ながら言った。
俺はどう返事をしていいかわからずに躊躇していると「虫のいい話だけど、桃子ちゃんと礼の約束、今度、実現してくれる?」とタカマリが言った。
「ああ、そんなのあったな」
「どこで、何して遊びたいか、桃子ちゃんに聞いておいて。で、メールしてくれるとありがたいわ。わたしは、平日と平日に重なった祝日が仕事なんだけど、基本、土日は休みなの。清水君は?」
「俺は、基本的に土日祝日は休みだよ」
「なら、あんまり空けないうちの土日ってことで。今日は、ほんとありがとう。少なくとも、清水君とこうやって普通にお話できてよかったわ」
タカマリはそう言うと、門灯が点いている玄関まで歩いて行ってから、俺の方に振り返って片手を上げてから家の中に入っていった。
「清水君にとっては、わたしが一番の加害者だものね」
俺の家に向かう道すがら、タカマリが言ったこの言葉が、俺の頭の中で何回も繰り返された。祭りの金魚すくい屋での再会、ばあちゃんアイスを食べながらの義足にまつわる話、そして、同窓会と、立て続けに俺との間で“普通の会話”が行われたけれど、確かに、タカマリの言う通り、俺の中学時代のみならず、それ以後の人生をも決めてしまった大きな要因の一つがタカマリによるいじめだったはずだ。しかし、そのいじめの張本人と、大人になってからこうして普通の会話をし、それだけでなく、桃子や礼君を通じて、なおもこれから付き合っていこうとしているこの事態を俺はちゃんと受け止めることができていないのに、何事もなかったかのように振る舞っていられたことも、自分で理解できていなかった。
子どもの頃のことにこだわったり、逆恨みを持ったりしないのが“普通の42歳の大人”とタカマリは言っていた。ならば、こんな俺も、見掛けでは、普通の42歳の大人になったのだろうか。
「さて、それでは、次のコーナーは“月曜自由時間”です。毎回、月曜だというのにこのテンションは何?みたいなものを企画してお送りしていますが、今回は、『第3回 月曜日から聴きたくない曲ランキング~』
面白そうなコーナーなんだけれど、お寺に着いてしまったので、俺は広い駐車場にバックでトラックを停めてエンジンを切り、暑い車外に出た。頼んでもいないのに、アブラゼミの大合唱が俺を迎えてくれた。
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