第1251話世間の無常を悲しみし歌

世間の無常を悲しみし歌

天地の  遠き初めよ 世間は 常なきものと  語り継ぎ

流らへ来たれ  天の原  振り放け見れば  照る月も  満ち欠けしけり

あしひきの  山の木末も 春されば  花咲きにほひ

秋づけば  露霜負ひて  風交り  もみち散りけり

うつせみも  かくのみならし  紅の 色も うつろひ

ぬばたまの  黒髪変り  朝の笑み  夕変らひ

吹く風の 見えぬがごとく  行く水の  止まらぬごとく

常もなく うつろふ見れば にはたづみ  流るる涙  留めかねつも

                        (巻19-4160)

※にはたづみ:「流る」にかかる枕詞。


この天地の、はるか遠き初めの時から、

世間というものは無常であると、語り継がれて来ました。

大空を見上げて見れば、照る月にも満ち欠けはありますし、

山に生える梢にしても、春が来れば花は咲き乱れ、

秋になれば露霜を受けて風にさらされ、紅葉は散ってしまうのです。

世間に生きる人々も、同じようなものです。

紅に輝いた頬も色あせ、黒髪は白髪に変わり、朝見た笑顔も夕方には消え失せ、

吹く風が目に見えることがないように、流れ行く水が止まることがないように、

留まることなく、移り変わって行く様子を見れば、

流れ出す涙を留めることなどできないのです。



                  

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