第1119話由縁ある雑歌(9)

児部女王が嗤ふ歌一種

※児部女王:未詳。


かほよきは いづくも飽かじを 尺度らが 角のふくれに しぐひあひにけむ

                            (巻15-3821)


右は、時に娘子有りき。姓は尺度氏なり。この娘子、高き姓の美人が誂ふところを聴さず。下き姓の醜士が誂ふところを応許す。ここに児部女王、この歌を裁作りて、その愚を嗤咲ふ。


イケメンであれば、誰でも好きになるものなのに、あの坂門の娘は、どうして、あのゴツゴツとしたふくれ顔の男と、一緒になってしまったのでしょうね。


右の歌は、昔、一人の娘子がいた。姓は尺度氏。この娘子は、名門のイケメンが求婚してくるのを受け付けず、身分の低い不細工な男からの求婚を受け入れた。児部女王は、その話を聞きつけ、この歌を詠んだと言われている。


児部女王が「嗤う」は、尺度氏の娘子の、「あきれた結婚」を嗤っているのである。

「容姿も身分(財力)も、劣る不細工な貧乏男と結婚してしまうとは、なんと恥ずかしいことを」と嗤うのだ。

ただ、人の心は、そんな表面的な物だけでは動かない。

心と心が通じ合わなければ、イケメンの裕福な家に住んだとしても、牢屋に入ったような、辛い生活。

万葉集に残るのは、それを理解しなかった王族児部女王への批判の意味も込められているのかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る