第1117話由縁ある雑歌(7)

味飯を 水に醸みなし 我が待ちし かひはかつてなし 直にしあらねば

                         (巻16-3810)

※水に醸みなし:醸造して、液状にすること。蒸し米を口で噛み、酒にする古代の酒造方法。女性の仕事であったと言われている。

とにかく長く待ちこがれたの意味もある。


右伝へていわく、

「昔、娘子有り。その夫と相別わかれて、望ひ恋ひて年経ぬ。

その時に、夫君、更に他し妻を取り、正身は来ずて、ただに裏物のみを贈る。

これによりて娘子、この恨みの歌を作りて、還し酬ふ」

といふ。


上手に美味しく蒸したお米を酒にして、ずっと貴方様をお待ちしていたのですが、その努力は、全く無駄になったようです。貴方様ご自身が、私の家に来られないのですから。


右は伝承によると

「昔、一人の娘子がいた。娘子は、その夫と別れて暮らす事情が発して、逢いたいと恋慕いながらも、年月が過ぎてしまった。ところが、夫はその期間中に、他の女を妻に迎え、(しばらくして)本人は直接には来ないで、使者が包み物だけを贈ってよこした。そのような事情から。、娘子はこの恨み歌を作り、送り返した」

となっている。


おそらく夫は官僚。

勅命で、何年か、地方官として赴任。

その赴任中に、現地妻を迎えたのではないか。(子も生まれたかもしれない)

平城京で、ずっと待っていた娘子には申し訳ないけれど、新しい妻への愛情のほうが、勝った。

だから包み物(赴任地の土産か?)を、使者に渡して、前の妻(娘子)に送った。


娘子としては、当然、納得出来ない。

だから、「何で貴方が直接来ないの?しっかり説明してよ!」の返しになるのである。

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