第1115話由縁ある雑歌(5)

住吉の 小集楽に出でて うつつにも おの妻すらを 鏡と見つも

                         (巻16-3808)

右は傳へて云はく「昔鄙人あり。姓名は未だ詳かならず。時に郷里の男女、衆集ひて野遊しき。この會集へる中に鄙人の夫婦あり。その婦の容姿端正しきこと衆諸に秀れたり。乃ち彼の鄙人の意に、弥よ妻を愛しぶる情の増りて、すなはち、この歌作り、美貌を賛嘆す」といへる。


住吉の歌垣に出てみたら、実際のところ、私の妻が、とにかくきらきらと鏡のように輝いて見えました。


この右の歌については、次のような言い伝えがあります。


その昔、鄙びた所に住んでいる人がおりました。

家柄も名前も、よく知られていない人です。

ある時、その里の男女が大勢集まり、野遊びの歌垣を行いました。

この歌垣の会に、その鄙びた所に住んでいる夫婦がおりました。

さて、その妻の容姿が、集まった人々の中で、特に際立って美しかったようです。

そこで、その鄙びた所に住んでいた夫の心に、ますます妻への愛情が強くなり、この歌を作って、妻の美貌を褒め称えた、と伝えられております。


「おノロケの歌」と思うけれど、妻の美しさに惚れ直した、それで歌を詠んだ、そういうおめでたい歌と受け取るのが、一番自然で、ほのぼのとする。

それで、妻が喜んで、夫婦円満、子孫繁栄につながって、現代の私たちにもつながっている、としたほうが、私たちも幸せになる。


「実際、本当に美しかったの?」なんて問いは、下衆の勘繰りでしかない。

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