第1087話中臣朝臣宅守、狭野弟上娘子と贈答する歌(2)

塵泥の 数にもあらぬ 我ゆゑに 思ひわぶらふ 妹が悲しき

                    (巻15-3727)

あおによし 奈良の大路は 行き良けど この山道は 行き悪しかりけり

                    (巻15-3728)

愛しと 我が思ふ妹を 思ひつつ 行けばかもとな 行き悪しあるらむ

                    (巻15-3729)

恐みと 告らずありしを み越路の 手向けに立ちて 妹が名告りつ

                    (巻15-3730)

右の四首は、中臣朝臣宅守の上道して作りし歌。


塵や泥のような、物の数にも入らないような惨めな私のために、思い悩む愛しい妻を思うと、私も実に悲しいのです。


奈良の都の立派な大路は実に歩きやすいけれど、この山道は、歩き辛くて仕方がありません。

可愛らしいと私自身、心の底から思う妻のことを思いながら、この難路を進んで行くので、ますます歩き辛いのでしょうか。


恐れ畏むべきであって、告げてはならなかったのに、越の国に向かって越えて行く道の手向けの山で、ついに(耐えきれずに)妻の名を口に出してしまいました。


新婚早々、犯罪者(政治犯らしい)となり、流罪の旅路に出た中臣朝臣宅守が詠んだ歌。逢坂山あたりで詠んだ歌らしい。


いずれの歌もわかりやすい。

別れた妻に未練たっぷりの歌である。

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