第1086話中臣朝臣宅守、狭野弟上娘子と贈答する歌(1)
中臣朝臣宅守、狭野弟上娘子と贈答する歌
※中臣朝臣宅守:従四位中臣朝臣東人の七男。天平12年(740)勅勘(天皇の怒りに触れること)により、越前(福井県)武生に流罪。(政治事件により失脚説有り)
※狭野弟上娘子:さのおとかみのをとめ。伝未詳。東宮主蔵監(皇太子の宝物や衣服などを管理する職掌)の下級女官らしい。中臣朝臣宅守は、この娘子を娶った直後に流罪の身になった。(新婚直後に、遠く別れ住むことになった)
あしひきの 山道越えむと する君を 心に持ちて 安けくもなし
(巻15-3723)
君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の日もがも
(巻15-3724)
我が背子し けだし罷らば しろたえの 袖を振らさね 見つつ偲はむ
(巻15-3725)
このころは 恋ひつつもあらむ 玉櫛笥 明けてをちより すべなかるべし
(巻15-3726)
※玉櫛笥:「明ける」にかかる枕詞。
右の四首は、娘子、別れに臨みて、作りし歌。
苦しい山道を越えて行く貴方を、ずっと心に想っています。それだから私の心も休まることはありません。
貴方が進んで行く長い道のりを、折り畳んで焼き滅ぼしてしまうような、そんな天の火があったらいいのに。
私の愛しい貴方、いよいよ遠く見えないところに行かれるならば、白い袖を思いきり私に向かって振ってください、それを見ながら、偲びたいのです。
今は、恋い焦がれながらも、我慢はできます。でも、一晩が明けた明日からは、どう過ごしていいのか、まるでわかりません。
新婚早々、夫が流罪となってしまった、狭野弟上娘子の歌。
全て、実にわかりやすい。
特に、二首目の「長い道のりを、折り畳んで焼き滅ぼしてしまうような、そんな天の火が欲しい」は、面白い。アニメチックな感もするくらいであるけれど、新婚早々夫がいなくなる妻の気持ちが、よくわかる。
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