第1065話海辺に月を望みて作りし歌九首(1)

秋風は 日に異に吹きぬ 我妹子は 何時かと我を斎ひ待つらむ

大使の二男

                       (巻15-3659)

秋の風は、日毎に吹く強さを増して来た。

私の愛しい妻は、何時になったら私が無事に帰って来るだろうかと、その身を浄めて待っていることだろう。



月を望みて作りし歌ではあるけれど、月を詠んではいない。

季節は秋になり、海上を吹きわたる風が日増しに強さを増すのを感じ、この先の航海を不安に思ったと思われる。

だから、平城京の自宅で待つ愛しい妻に思いを寄せた。

大使の二男であるから、まだ若い人かもしれない。

若い妻がいて、あるいは子供もいたかもしれない。

「この先の航海で死にたくない」だから「とにかく無事に一日でも早く帰って来てください」と身を慎んでいるだろう妻の姿を思い浮かべる。

そんな、なかなか切実な歌である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る