第962話あきづ島 大和の国は 神からと

あきづ島 大和の国は 神からと 言挙げせぬ国

しかれども 我れは言挙げす 天地の 神もはなはだ

我が思ふ 心知らずや 行く影の 月も経ゆけば 

玉かぎる 日も重なりて 思へかも 胸の苦しき

恋ふれかも 心の痛き 末つひに 君に逢はずは

我が命の 生けらむ極み 恋ひつつも 我は渡らむ

まそ鏡 直目に君を 相見てばこそ 我が恋やまめ

                    (巻13-3250)

※あきづ島:「大和」に掛かる枕詞。

※言挙げ:自分の心を直接言葉に出すこと。

※行く影の:「月」に掛かる枕詞。

※玉かぎる:「日」に掛かる枕詞。


反歌

大船の 思ひ頼める 君ゆゑに 尽くす心は 惜しけくもなし

                    (巻13-3251)

ひさかたの 都を置きて 草枕 旅行く君を いつかと待たむ

                    (巻13-3252)


大和の国は、神の御心のままに、言挙げをしない国です。

しかし、私は言挙げをします。

天地の神は、全く私の心をご存知ないのでしょうか。

何もできぬまま空しく月が変わり、日を重ねて思い悩むので、胸が苦しくてならないのです。

恋い焦がれているので、心が痛くてならないのです。

これから後、いつになっても貴方に逢えないとしたら、私の命の続く限り、恋に苦しみながら過ごして行くことになるでしょう。

それでも、直接貴方にお逢いできる時こそに、私の苦しみはおさまることになるでしょう。


大船に乗ったように頼りにしている貴方なのです。尽くす心など惜しくはありません。


都を後に、旅を行く貴方を、いつお帰りになると、待ち続けることになるのでしょうか。


夫が都から、地方官として旅立つ。

研究者によっては、瀬戸内海を通って海外へ、とする人もいる。

いずれにせよ、使われている字句の立派さから見て、宴席歌の可能性が高い。

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