第956話かむとけの 日香る空の
かむとけの 日香る空の 九月の しぐれの降れば
雁がねも いまだ来鳴かね 神なびの 清き御田屋の
垣つ田の 池の堤の 百足らず 斎槻の枝に
瑞枝さす 秋の黄葉 まき持てる 小鈴もゆらに
たわや女に 我はあれども 引きよぢて 枝もとををに
ふさ手折り 我は持ちて行く 君がかざしに
(巻13-3223)
※かむとけ:「日香る空」に掛かる枕詞。落雷の意味がある。
※清き御田屋:「清き」は斎み浄めたの意味。「御田屋」は神田を守る小屋。
※百足らず:斎槻に掛かる枕詞。
※斎槻の枝:神聖な槻の木の枝。
大空に大きな雷が鳴り響く九月になって、時雨が降る頃になると、
雁はまだ飛来して鳴かない神なびの浄められた御田屋の、
垣内の田の池の堤に立つ神聖な槻の木には、枝いっぱいに秋の黄葉が輝きます。
その鮮やかで美しい黄葉を、手に巻き付けた小鈴が小さな音で鳴り響くような、か弱い女ではあるけれど、引き寄せて枝をたわめて、たっぷり手折って私は持っていきます。
私の愛しい君の髪飾りのために。
反歌
ひとりのみ 見れば恋しみ 神奈備の 山のもみぢ葉 手折り来り君
(巻13-3224)
一人きりでは見ていても面白くなくて、貴方に見せたくて仕方がないので、神奈備の黄葉を手折って来ました。
池の堤に、槻の木を植えるのは、堤を堅固にするため。
その槻の木の下では、国見の祭りや遊びが行われた。
この歌は、その宴会で謡われた可能性が高い。
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