第877話月しあれば 明くらむわきも 知らずして

月しあれば 明くらむわきも 知らずして 寝て我が来しを 人見けむかも

                            (巻11-2665)


空に月が照っていたので、夜が明けたことに気がつかなかった。

そのまま寝過ごしてしまって、女の家を出て来たけれど、世間の人に見つかってしまっただろうか。


月齢16日頃の月は、日没後まもなく昇り、深夜一番高く、夜明け後に西に沈む。

男は、月が照っているからまだ夜、と思い込み、つい寝過ごしてしまった。

しかし、外に出ると、すでに夜明け。

女の家を出るところを、世間の人に見られてしまったのではないか。

これから、噂を立てられ、下手をすれば破談になるのでは、そんな不安が帰る男を包む。

居心地がよくて寝過ごしたのかもしれないけれど、そのうかつさは、否定できない。

いろいろ考えると、古代の結婚も、また難儀である。

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