第875話夜並べて 君を来ませと ちはやぶる

夜並べて 君を来ませと ちはやぶる 神の社を 祈まぬ日はなし

                       (巻11-2660)

霊ぢはふ 神も我をば 打棄ててこそ しゑや命の 惜しけくもなし

                       (巻11-2661)

※霊ぢはふ:神にかかる枕詞。「ちはやぶる」以上に、神の御心の内面に目を向けた表現。


我妹子に またも逢はむと ちはやぶる 神の社を 祈まぬ日はなし

                       (巻11-2662)

ちはやぶる 神の斎垣も 超えぬべし 今は我が名の 惜しけくもなし

                       (巻11-2663)

※斎垣:神域を囲む聖なる垣根の意味。


上から順番に二首は女性の歌、続く二首が男性の歌。

ほぼ、同じ流れなので、恋愛関係のある二人と解する。


毎晩、貴方にいらして欲しいと、神の社に祈らない日はありません。

神様、こんな辛いのなら、私などお見捨てください、もう、こんな命など惜しくはないのですから。


愛しいあの子に、再び逢おうと、神の社に祈らない日はありません。

神の社の神聖な垣根も越えてしまいそうです。今となれば、私の名前など、何も惜しくはないのです。


神の斎垣を越えるので、禁忌を破るの意味になる。

そのため、諸解説では、人妻への恋を解釈する説もある。

しかし、そうなると女性の歌が、「そこまで別の男の来訪を望むのか?」との疑問が生じる。

※ただ、絶対に無いとは言い切れない、性道徳は現代とは比較にならないほど緩いとの説もある。


わかりやすいのは、一般的な親の厳しい監視を、神の斎垣にたとえた解釈。

純朴で、定例的な歌意の四首でもあり、不倫願望とは馴染まないと、考えている。



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