第869話妹が髪 上げ竹葉野の 放ち駒

妹が髪 上げ竹葉野の 放ち駒 荒びにけらし 逢はなく思へば

                       (巻11-2652)

※竹葉野:おそらく牧場。しかし所在地は未詳。


馬の音の とどともすれば 松陰に 出でてぞ見つる けだし君かと

                       (巻11-2653)


君に恋ひ 寝ねぬ朝明けに 誰が乗れる 足の音ぞ 我に聞かする

                       (巻11-2654)



愛しいあの子の髪をかきあげてたくという言葉があるけれど、あの子の心は竹葉野の放れ馬のように荒れて、私から離れてしまったらしい、逢ってくれないことを思うと。


馬の足音が、どど、と聞こえて来ると、松の陰に出て見ています。もしや貴方様ではないかと。


君恋しさに眠れなかった夜明けに、どなたが乗る馬の足音なのでしょうか。この寂しい私に聞かせて通り過ぎるとは。



最初の一首が男の歌、次の二首が女の歌。

男の歌は、女と喧嘩でもしたのか、疎遠を嘆く。

女の歌は、待ち焦がれる喜びと、一睡もしないで待ったけれど、馬の足音だけが通り過ぎる落胆。


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