第559話或る者の、尼に贈りし歌二首

或る者の、尼に贈りし歌二首


手もすまに 植ゑし萩にや かへりては 見れども飽かず 心尽さむ

                         (巻8-1633)

衣手に 水渋付くまで 植ゑし田を 引板我が延へ 守れる苦し

                         (巻8-1634)


手を休めずに植え育ててきた萩なので、今となっては、どれほど見ても飽きることがなく、散ってしまわないかと気を揉むことになりそうです。


衣の袖に水垢がつくほどまでにして植え育てた田でありますのに、今は鳴子の縄を張り巡らして見張って守るのに、本当に苦心しております。


ある人が、尼の娘を引き取って苦労して育てたけれど、いくら見ても見飽きないほどの美しさとなった。

そうなればそうなったで、悪い虫がつくことを心配してしまうし、手放したくはなくなってしまった。


作者も尼も未詳なので、様々な説がある。

ある者が、大伴家持説、あるいは何らかの寓意を込めた歌。

当時の婚姻関係や家族関係が、現代とは相当に異なる。

例えば、大伴家持が尼の娘を幼少時から引き取って育てるという事実が考えらえるのか、それが確定しないと、なかなかある者と尼の関係を把握するには至らない。


そもそも、尼に幼い娘がいたことをどう考えるのか。

結婚が基本的に禁止されていたので、子を誰かに預けてから出家したのか。

あるいは尼でありながら禁忌を犯してしまい、娘を出産。

ある者に預けたのか、そんな推測も生まれてくる。


特に作者名が明確に記されていない場合は、複雑な事情があるらしい。

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