第558話 今造る 久迩の都に 秋の夜の

大伴宿祢家持の、安倍女郎に贈りし歌一首


今造る 久迩の都に 秋の夜の 長きにひとり 寝るが苦しき

                      (巻8-1631)

今造っている久迩の都にいるのですが、秋の夜長を、独り寝するのは、実に寂しく辛いのです。


大伴家持が奈良京にいる安部女郎に贈った歌。

聖武天皇は、天平十二年(740)十月二十九日から、各地をさまよい始める。

十二月十五日に、橘諸兄の別業のある山城国久迩に落ち着き、都として造営を始めた。(その後天平十五年に造営中止)


宮仕えの辛さ、目と鼻の先にある奈良京にもどれない、もどかしさ。

不用意に奈良京に戻り、それが知られれば、どんな嫌疑をかけられるのか恐ろしくてならない。

何しろ、官僚世界は、足の引っ張り合いなのだから。

せめて、歌で「独り寝の辛さ」を詠むくらいが、不満のはけ口だったと思う。



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