第357話山背にして作りき

宇治川は 淀瀬なからし 網代人 舟呼ばふ声 をちこち聞こゆ

                       (巻7-1135)

宇治川には歩いて渡ることができる緩い浅瀬が無いようです。

網代人が岸に向かい、舟を呼び合う声が、あちらこちらから聞こえて来るのです。

どこに向かうのか、現地宇治の美しい女性のもとかもしれない。



宇治川に 生ふる菅藻を 川早み 採らず来にけり つとにせましを

                       (巻7-1136)

※菅藻:未詳。※つと:土産

宇治川に生えている菅藻を川の流れが速いので、採らずに来てしまいました。

土産にしようと思っていたのですが。

菅藻は現地の美しい女性、(土産)都の自分の家に妻として連れて帰ろうとしたけれど、流れが速い(競争相手)が多いので、出来なかったとの意味もあるかもしれない。



宇治人の 譬えの網代 我なれば 今は寄らまし 木屑来ずとも

                       (巻7-1137)

宇治人の譬えとして有名な網代、この私ならとっくに網代に寄り付いておりますよ。木の屑が寄って来なかったとしても。

網代は氷魚を取る装置で、宇治川の名物。それが転じて、網を張り、美女を引き込む男の代名詞でもあった。

おそらく、これも宇治川を見ながらの宴席の歌。

詠んだのは、宴席に呼ばれた遊女か。

私が誘われるなら、木屑(他のどうでもいい女ども)が寄って来なくても、とっくに網代(貴方)に引き込まれております、なかなか商売熱心というべきか、全く「その気」がないけれど、酔っ払い男たちをからかっただけか。



宇治川を 船渡せをと 呼ばへども 聞こえずあらし 梶の音もせず

                        (巻7-1138)

この宇治川を船を渡して欲しいと何度も呼ぶのですが、全く聞こえないようです。櫓の音も聞こえて来ないのです。

宇治川の流れの速さと、川幅の大きさを素直に呼んだ歌に思うけれど、なかなか船が来ないのを口実に、男が居座るのか、女が引き留めるのかもしれない。



ちはや人 宇治川波を 清みかも 旅行く人の 立ちかてにする。

                        (巻7-1139)

宇治川の川波が実に清らかなので、旅行く人は見とれてしまって、立ち去りかねているのです。

川波は宇治の美しい女性、そうなればなるほど、立ち去りは難しい。

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