第343話河を詠みき(5)

さ檜の隈 檜の隈川の 瀬を速み 君が手取らば 言寄せむかも

                       (巻7-1109)

ゆ種蒔く あらきの小田を 求めむと 足結ひ出て濡れぬ この川の瀬に

                       (巻7-1110)


さ檜の隈の 檜の隈川の川瀬が速いので、貴方の手にすがったなら、世間の噂となってしまうでしょうか。


斎み清めた籾を蒔く新墾の田を探そうとして、足を結って出かけてきたのですが、この川瀬で、足結を濡らしてしまいました。



この二首は、檜隈地方の宴会での謡い物らしい。

内容的には、純粋に川を詠むというよりは、男女の逢瀬の歌。

一首目は女性が男性の手にすがって、速い川瀬を渡るけれど、噂を気にしている。

おそらく、恋の逃避行と思われる。


二首目の「斎み清めた籾を蒔く新墾の田」は未婚の女性か。

足結は、袴を膝の下で結んだ紐。

旅支度をして出かけてきた、つまり意を決して、初々しい彼女を求めに来たけれど、邪魔が入って、恋の旅路も進まないという意味らしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る