第334話雨を詠みき

我妹子が 赤裳のすそ野 ひづつらむ 今日の小雨に 我さへ濡れな

                         (巻7-1090)

通るべく 雨はな降りそ 我妹子が 形見の衣 我下に着り

                         (巻7-1091)


愛しいあの娘の赤裳の裾を今日の小雨は濡らしているのでしょう。

私も濡れて歩こうと思います。


こんなに濡れ通るほど、雨は降らないでください。私は愛しいあの娘の形見の衣を下に着ているのですから。



一首目は、愛しい娘と離れている状態で、小雨が降っている。

その小雨の中、愛しい娘が濡れて歩くなら、私も同じ雨に濡れて歩きたい。

好きな人が濡れる雨なら、一緒に濡れてもかまわない、いや、出来れば一緒に濡れることで、同じ思いをしたい、一体となりたいと願う。


二首目は、男女が互いを偲ぶ形見として、下着を交換する風習があった。

小雨なら我慢できるけれど、びしょ濡れになって、せっかくの形見の衣をひどい状態にしないで欲しいと、雨に願う。


研究者によっては、別の男の詠と言うけれど、同じ男が小雨の段階から、雨が激しくなってしまうのを恐れる心理が読み取れるので、同じ男のほうが、スムーズと思われる。


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