第333話雲を詠みき(2)

大き海に 島もあらなくに 海原の たゆたふ波に 立てる白雲

                       (巻7-1009)

右の一首は、伊勢に従駕せし時の作なり


この広い大海に島などは全く見えないのに、海原のたゆたう波の上に、白い雲が立ち渡っている。


この伊勢行幸の時期と、作者も未詳となっている。

万葉時代の人にとって、雲は島や山の上に立つものだったようだ。

しかし、立つはずがない白雲が、おそらく海の上、船の上から見えている。

もし、雲が大きくなり、嵐にでもなれば、実に恐ろしい。

帝も、付き従う自分も含めて、海の中に沈むかもしれない。

しかも、周囲に島などは全く見えない。

泳いでもたどり着けない、つまり死さえも、覚悟しなければならない。

そして、その後の国は、自分の家族はと思うと、不安は増すばかり。


また別の解釈もある。

大海に島もないのに湧き立つ雲、その自然の不思議を素直に詠んだ歌とも考えられると、自然詠の立派な歌と化す。


ただ、そうなると難しいのは、何故、この立派な歌が詠まれた時期と、詠み人を記さなかったのか。。


編者の意図はどこにあるのか、これで万葉集の疑問は、なかなか尽きない。

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