第314話大伴坂上郎女の月の歌三首

猟高の 高円山を 高みかも 出で来る月の 遅く照るらむ

                     (巻6-981)

ぬば玉の 夜霧の立ちて おほほしく 照れる月夜の 見れば悲しさ

                     (巻6-982)

山の端の ささらえ壮士 天の原 門渡る光 見らくしよしも

                     (巻6-983)


※猟高:高円山周辺の旧名。

※高円山:奈良市春日山の南の丘陵地帯。

※ささらえ壮士:月の異名。「ささら」は小さい意、「えをとこ」は美男子。


猟高の高円山が高いからなのでしょうか、月がこんなに遅く山の端から出て、照っています。


夜霧が立って、ぼんやりと照る月を見ていると、悲しくなってしまいます。


山の端にみえる可愛らしい美男子が、天の原を渡りつつ、光輝いています、なんと見ていて素晴らしいことではないでしょうか。


前出の安倍虫麻呂の「月の歌」を受けて、郎女が詠った歌を並べている。

互いの母が姉妹なので、従兄弟が同席して、月を詠んだのと思われる。

ただ、安倍虫麻呂の歌が先に来ているので、虫麻呂が詠んだ時間は、雲が多く、月はまだ見えていない。

その後、郎女の一首目の歌で、ようやく月が出る。

しかし、夜霧が立ち込めていて、はっきり見えないと嘆く。

最後の歌の時には、小さいながらも光り輝いて見えたのだろう、「可愛らしい美男子さん」と大喜びとなっている。


月の出を待ち続けるなど、現代人ではまずしない。

これも残念ながら、失われた文化なのだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る