第312話大和道の吉備の児島を過ぎて行かば

大納言大伴卿の和せし歌二首


大和道の 吉備の児島を 過ぎて行かば 筑紫の児島 思ほえむかも

                          (巻6-967)

ますらをと 思へる我や 水茎の 水城の上に 涙拭はむ

                          (巻6-968)


※吉備の児島:岡山県児島半島

※水茎の:水城にかかる枕詞



大納言大伴卿が答えた歌二首


帰り道の大和道の吉備の児島を過ぎ行く頃には、筑紫の児島を思い出すだろう。


立派な男と自分では思っていたけれど、水城の上で涙を拭くことになろうとは。



大伴旅人は、遊女児島と、身分の違いを超えて、心が通い合っていた。

だから、別れが辛い。

なるべく早く都に戻りたいと思うのが、大伴家の棟梁として、当然ではあるけれど、大宰府で妻を亡くして以来、傷心の旅人を慰め続けて来た児島との別れは、立派な男であり武人でもある旅人にとっても、泣けてしまうほど寂しいのである。


一首目では、「吉備の児島を通れば思い出すかな」程度で、見栄を張っているけれど、そんな見栄はすぐに破綻する。

俺だって寂しくてしかたないよ、お前との別れは、もう涙が自然にあふれれくる。


いつの世も、心を通じ立った相手との別れは、実に辛く寂しい、それを感じさせてくれる名歌である。





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