第289話敬みて熊凝の為にその志を述べし歌に和せし歌六首(3)

家にありて 母が取り見ば 慰むる 心はあらまし 死なば死ぬとも

                         (巻5-889)

出でて行きし 日を数えつつ 今日今日と 我を待たすらむ 父母らはも

                         (巻5-890)

一世には 二度見えぬ 父母を 置きてや長く 我別れなむ

                         (巻5-891)


家にいて、母が私を看病してくれるなら、心が慰められることもあると思うのです。

死が避けられないとわかっていても。


家を出発してから、毎日、日数を数え、今日には帰る、今日には帰ると、父母は私を待っていることでしょう。


一生に二度と見られない父母を残して、私は永遠の別れをしてしまうのでしょうか。



旅先で、死が避けられないと自覚する時、思い浮かぶのは故郷で自分を待ち続ける父母を思う。


母に看取られて死にたい。

ずっと待ち続ける父母に申し訳ない。

もう、二度と見られず永遠の別れとなってしまう。


敬みて熊凝の為にその志を述べし歌に和せし歌六首

山上憶良の、まさに、心を揺さぶられる哀歌と思う。


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