第285話大伴君熊凝 大典麻田陽春の作

大伴君熊凝の歌二首 大典麻田陽春の作

国遠き 道の長手を おほほしく 今日や過ぎなむ 言問ひもなく

(巻5-884)

朝露の 消やすき我が身 他国に 過ぎかてぬかも 親の目を欲り

                        (巻5-885)


故郷の国を遠く離れた長旅の途中で、心苦しくも、今日私は命を落とすのであろうか。送り出してくれた両親と言葉を交わすこともなく。


朝露のように、はかなく消えてしまう私の身体ではあるけれど、見知らぬ他国では、死にきれない。両親の顔が見たくて。




上の歌は、大伴君熊凝の臨終の際の気持を、大宰府大典(四等官)浅田陽春がなりかわり詠んだもの。


大伴君熊凝は肥後国益城群から相撲取として、国衙の官人に連れられて都に上る途中、安芸国佐伯郡高庭で、病のため18歳の若さで命を落とした。

国の期待を背負い、不安と誇らしさの中、見送ってくれた両親に対し、旅の途中ではからずも死んでしまうことの、悔しさと切なさは、察して余りある。



※次回より、山上憶良が、この二首に唱和した序文と連作六首となります。









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