第261話家に行きて いかにか我がせむ~
反歌
家に行きて いかにか我がせむ 枕づく つま屋さぶしく 思ほゆべしも
(巻5-795)
はしきよし かくのみからに 慕ひ来し 妹が心の すべもすべなき
(巻5-796)
悔しかも かく知らませば あをによし 国内ことごと 見せましものを
(巻5-797)
妹が見し あふちの花は 散りぬべし 我が泣く涙 いまだ干なくに
※あふち:センダン。 (巻5-798)
大野山 霧立ちわたる 我が嘆く おきその風に 霧立ちわたる
※大野山:大宰府北の葬送地 (巻5-799)
家に戻ったところで、私は何をすればいいのか。貴方のいない寝室など寂しく思うしかないのだから。
もう、どうにもならない。こんなことになってしまうのに、私を慕ってついて来てしまった妻の心が、やりきれないほど悲しい。
こうなると知っていたのなら、国の中のあちこちを見せてあげたのに、本当に悔しくてしかたがない
貴方が見ていたあふちの花は、散ってしまうようだ。私の流す涙がまだ乾かないのに。
大野山に霧が立ち込めている、私の涙が風に吹かれ、霧として立ち込めている。
前回の日本挽歌の反歌。
山上憶良が、愛妻を亡くしたばかりの大伴旅人の立場で詠んでいる。
どの歌も、大宰府国府に到着して間もなく亡くなってしまった妻への愛惜と、寂寥感に満ちている。
特に妻を葬った大野山に立ち込める霧は、私が嘆く涙の霧という歌は、心に響く。
悔しくて哀しくて寂しくて仕方が無い涙が、もう二度と逢えることのない妻の亡き骸を、霧になって包み込む。
そして、山上憶良の感性と表現の素晴らしさにも、心を包まれてしまうことになる。
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