第187話紀女郎の怨恨の歌(1)

世の中の 女にしあれば 我が渡る 痛背の川を 渡りかねめや

                        (巻4-643)


普通の世の中の女であれば、私が渡るあなせの川を、渡ることに難儀することはないのでしょうけれど。


紀女郎は、安貴王の妻。

王は、紀女王との妻がいるにも関わらず、因幡からの采女を娶ってしまい、不敬罪に処せられてしまった。

采女は本国に送り返されてしまったけれど、王の気持ちは紀女王には戻らず、因幡の采女を恋い慕っていたようだ。

「痛背の川」は、現在の奈良県桜井市にある「穴師(あなせ)川」のことで、巻向川とも言われる。また「ああ、背の君よ」をかけてある。


紀女王としては、重罪人である王、采女でもある他の女に横恋慕した王を恨みつつ、川を渡る(別れる)ことを、決断しかねていたのだろう、「他の世間の女なら、キッパリと見捨てるだろうけれど」と歌う。



なかなか、関係を結んだ男と女の間には、他人には理解しえないものがあるのかもしれない。



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