第183話湯原王と娘子(1)

湯原王の、娘子に贈りし歌二首 志貴皇子の子なり

うはへなき ものかも人は かくばかり 遠き家路を帰さく思へば

                         (巻4-631)

目には見て 手には取らえぬ 月の内の 桂のごとき 妹をいかにせむ

                         (巻4-632)


娘子の報贈せし歌二首

いかばかり 思ひけめかも しきたへの 枕片去る 夢に見え来し

                         (巻4-633)

家にして 見れど飽かぬを 草枕 旅にも妻と あるがともしき

                         (巻4-634)



湯原王が娘子に贈った歌二首


冷たい人です、貴方という人は。泊めてもくれず、こんなに遠い家路を寂しく帰すとは。

目には見えるけれど、手に取ることができない、月の中の桂のような貴方を、私はどうしたらよいのだろうか。


娘子が湯原王に返歌として贈った歌二首


どれほど慕ってくれたのでしょうか。枕の片方をあけて寝た私の夢に、貴方が現れました。

家においても飽きることのない奥様を、貴方は旅にいてもお連れになさるとのこと、とてもうらやましいと思います。



湯原王は、志貴皇子の子、天智天皇の孫。

志貴皇子やその子たちは壬申の乱での敗北者側の系譜。

朝廷内での高い身分などは期待できないので、ひたすら風流人としての生き方を貫き、生き残る道を選んだ。

歌を贈りあった娘子は、旅先で出会った地方の娘で、特に立派な家系であるとかは不明。

尚、娘子の歌にもあるように、湯原王は珍しく妻を旅に同行させていたらしい。



娘子としては、「奥様を連れての旅行中に、とんでもない」ということで、湯原王との共寝を拒んだようだ。

湯原王様が夢にまで出てきましたけれど、「いくらなんでも、公然の浮気は・・・」ということなのだろうか。


ただ、湯原王が地方官になった記録が無いことから、湯原王の一人で詠んだ架空の歌物語という説もある。

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