第184話湯原王と娘子(2)

湯原王のまた贈りし歌二首

草まくら 旅には妻は率たれども 櫛笥の内の 玉こそ思ほゆれ

                       (巻4-635)

我が衣 形見に奉る しきたへの 枕を離けず まきてさ寝ませ

                       (巻4-636)


娘子のまた報贈せし歌一首

わが背子が 形見の衣 妻問ひに 我が身は離けじ 言問はずとも

                       (巻4-637)


湯原王が、再び娘子に贈った歌二首。

確かに旅に妻を連れてきてはいるのですが、櫛箱の中の玉のことが、思われてならないのです。


私の衣を形見として差し上げます。貴方の枕から離さず、その身に巻いてお休みになられてください。



娘子が、再び湯原王に返し贈った歌一首。

あなたからの形見の衣を、あなた自身が来られたものと思い、私の肌身から離すことは決していたしません、衣は何も言わなくても。




一夫一婦制の現代でいえば、不倫そのもの。

ただ、一夫多妻の古代では、どうだったのだろうか。

湯原王の妻と、娘子には、相当な身分の格差があったはず。

身分差意識が強い時代でもあり、湯原王の妻が、少々の嫉妬心を抱いたとしても、自分より身分の低い娘にどれだけ怒りを覚えたのだろうか。


ちなみに時代は下るけれど、源氏物語の話。

六条御息所が生き霊として祟ったのは、源氏の正妻だけ。

つまり葵の上、紫の上、女三宮になる。

夕顔は、相当身分が低いので、悪霊の取り憑かれて死んだけれど、六条御息所の生き霊ではない。(光源氏も六条御息所の生き霊であれば、すぐに把握しているはずになるけれど、そうではない)


いずれにせよ、現代の恋愛観からは、少々かけ離れている歌の応答である。


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