第182話 若返りの水

娘子の 佐伯宿祢赤麻呂に報贈せし歌一首

わが手本 まかむと思はむ ますらをは をち水求め 白髪生ひにたり

                           (巻4-627)


佐伯宿祢赤麻呂の和せし歌一首

白髪生ふる ことは思はず をち水をは かにもかくにも 求めて行かむ

                            (巻4-628)




私と共寝したいと思っておられる、ますらおの貴方、若返りの水を求めていらしてください、のん気にしていると、白髪が生えてしまいますよ。



白髪が生えるなんて考えてもいませんよ、それでも若返りの水を求めて、早速参上いたしましょう。



をち水は、若返りの霊水。

元正天皇が美濃国不破に行幸した際に、多戸山の美泉を「病の平癒」と「若返り」の名水と称賛し、「養老」と改元したという故事がある。


さて、いろいろな解釈があるけれど、この二人の間の「をち水:若返りの水」は、酒かもしれないし、佐伯宿祢赤麻呂を招いた娘子自身のように思う。


それも、通常の真面目な恋愛関係ではない。


酒家か妓楼の娘が、馴染みの客に、「白髪が生えるまで待たせないでください、若返りの水(私)を求めて遊びに来てください」と誘い、男客の佐伯宿祢赤麻呂は、「そんなには待たせません、若返りの水(娘子)を楽しみに、早速行きます」と答える。


それを思うと、佐伯宿祢赤麻呂は娘子にとって、金払いが良い上客だったのかもしれない、ただ、歌を返すだけであてにならないタイプだったかもしれないなど、様々な想像が浮かんで来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る