第180話旅路の夫を想う妻と、その夫

西海道節度使判官佐伯宿祢東人の妻の、夫君に贈りし歌一首

間なく 恋ふれにかあらむ 草枕 旅なる君が 夢にし見ゆる

                      (巻4-621)


佐伯宿祢東人の和せし歌一首

草枕 旅に久しくなりぬれば 汝こそ思へ な恋ひそ我妹

                      (巻4-622)


いつもいつも、貴方のことを恋しく思っているからでしょうか。

旅先の貴方が、夢に現れるのです。



私も旅路に出て久しくなってしまったので、貴方のことばかりを思っている。

だから、貴方も、そんなに恋しがらないで欲しい。



節度使は、天平4年(732)に、国際的には唐と渤海間の不穏な状況を受け、国内的には安定を強化する目的で、東海・東山・山陰・西海の諸道に設置された軍団を統括整備する役職。

佐伯宿祢東人は、西海道に設置された判官(三等官:4人配置)。

おそらく平城京に残して来た妻から、不安に思う手紙が届けられ、「大丈夫、私も貴方のことを常に思っているから、そこまで心配するな」と詠んだのだと思う。


現代であれば、すぐにメールや電話でつながるけれど、それができない時代。

夫は妻からの手紙がうれしく、妻も夫からの手紙がうれしかったのだろうか。


旅路における相聞歌として、何度も読みたくなる歌である。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る