第149話大伴旅人卿が帰京後に、沙弥満誓が贈った歌

太宰帥大伴旅人卿の京に上りし後に、沙弥満誓の、卿に贈るりし歌二首

まそ鏡 見飽かぬ君に 後れてや 朝夕に さびつつ居らむ

                           (巻4-572)

ぬばたまの 黒髪変わり 白けても 痛き恋には 会ふ時ありけり

                           (巻4-578)

※まそ鏡:「見」にかかる枕詞。※ぬばたま:黒にかかる枕詞。


見飽きることのなかった貴方に置いてきぼりをされてしまって、一日中、寂しく暮らしております。


黒髪が白髪になっても、こんな辛い恋心に出あう時が、あるのでした。



沙弥満誓は、笠朝臣麻呂と同一人物。

養老3年(719)7月、尾張・参河・信濃の三国を管する按察使を兼ねる。

同4年10月、右大弁として中央に復帰したけれど、翌年5月、元明太上天皇の病を理由に出家を請い、勅許され、以後、満誓と号した。

養老7年(723)二月、造筑紫観世音寺別当となり、大宰府に下向。

翌年大伴旅人が大宰帥として府に赴任すると、いわゆる筑紫歌壇の一員となった。

万葉集には、7首の短歌を残している。


尚、この歌を詠んだ時点で、満誓は観世音寺別当として筑紫に残っていた。

歌心がある者同士、心も通じていたのだろう。

その相手が都に帰ってしまえば、当然、寂しくて仕方が無い。

恋心とは、必ずしも男女関係などの恋愛だけではない。

心を通じた友に対する恋心も確かにある。

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