第148話大伴旅人卿帰京へのはなむけの歌

太宰帥大伴卿の、大納言に任ぜられて京に入る時に臨み、府の官人等の、卿を筑前国の蘆城の駅家に、はなむけせし歌四首


岬廻の 荒磯に寄する 五百重波 立ちても居ても我が思へる君

                       じょう門部連石足 (巻4-588) 

韓人の 衣染むといふ 紫の 心に染みて 思ほゆるかも

                       大典だいてん麻田連陽春やす (巻4-589)

大和へに 君が立つ日の 近づけば 野に立つ鹿も とよねてそ鳴く

                       大典麻田連陽春 (巻4-590)

月夜よし 川の音清し いざここに 行くも行かぬも 遊びて行かむ

                        防人じょう大伴四綱(巻4-591)



太宰帥大伴旅人卿が大納言に任ぜられ、上京する時に、大宰府の官人たちが筑前の国蘆城の駅屋において、送別の宴を行った時の歌四首


岬をめぐる荒磯に打ち寄せ続ける波のように、立っていても座っていても、いつまでも貴方のことをお慕いいたします。


韓の人が衣を染める紫色のように、深く心に貴方のことが心に染みて思うことでしょう。


貴方が大和に向けて旅立つ日が近づいたので、野に立つ鹿も、声を大きくして鳴いているのです。


素晴らしい月夜となりました。川の流れていく音も清々しく聞こえます。

さあ、旅立つ人も、ここに残る人も、楽しく遊んで帰りましょう。



天平2年(730)10月頃の大伴旅人卿の公卿補任とされている。

韓人の染色技術の優秀さから、「韓の人が衣を染める紫色のように、深く染みる」。

当時、大伴卿は正三位、衣服令における紫衣着用を許された人だった。


この四首の歌は、全て部下がはなむけとして、大伴卿に贈った歌。

どれも、わかりやすくて、送別には素晴らしい歌と思う。

個人的には、最後の防人の歌を気に入っている。

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